障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて ~社会保障審議会 障害者部会 報告書~ 令和4年6月13日 目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 基本的な考え方 Ⅲ 各論点について 1.障害者の居住支援について 2.障害者の相談支援等について 3.障害者の就労支援について 4.精神障害者等に対する支援について 5.障害福祉サービス等の質の確保・向上について 6.制度の持続可能性の確保について 7.居住地特例について 8.高齢の障害者に対する支援について 9.障害者虐待の防止について 10.地域生活支援事業について 11.意思疎通支援について 12.療育手帳の在り方について 13.医療と福祉の連携について (参考) ・ 開催経緯 ・ 委員名簿 注:本報告書中、(※)が付されている部分は、障害福祉サービス等報酬の改定時において省令、告示等による対応が想定されるもの Ⅰ はじめに ○ 障害者の日常生活及び社会生活の支援や障害児の発達支援のための障害福祉サービス等については、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)及び児童福祉法により実施されている。平成 28 年に障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成 28年法律第 65 号)が成立した際、施行後3年を目途として施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされた。 ○ 令和3年3月、本部会は、障害者総合支援法等の施行状況等について議論を開始した。事業者団体、当事者団体等の 46 団体からヒアリングを行うとともに、ヒアリング後には令和3年末までに計 13 回にわたって障害者総合支援法等の施行状況や施策の見直しに関する議論を行ってきた。また、障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会、障害児の新たな移行調整の枠組みに向けた実務者会議及び障害児通所支援の在り方に関する検討会における報告書についても本部会において報告され、議論してきたところである。 ○ 以上のような経過を経て、関連する審議会等の議論の進捗状況を踏まえつつ、本部会においては令和3年 12 月 16 日に下記の方針をまとめ、中間整理を公表した。 (1)一定の方向性を得るに至った障害児支援に関する論点については必要な措置を講じていくべきである。 (2)また、それ以外のさらに議論が必要な事項については、引き続き本部会における議論を継続し、来年(令和4年)半ばまでを目途に最終的な報告書をとりまとめることを目指す。 ○ その後、上記(1)の論点については令和4年に対応する児童福祉法の改正法案が第208 回通常国会(令和4年通常国会)で審議された。一方で、上記(2)の引き続き本部会における議論を継続するとされた論点については、令和4年3月より最終的な報告書のとりまとめに向けた議論を再開し、各論点について一層議論を深めてきた。また、障害者雇用率制度をはじめとした諸制度や施策については、本部会と並行して、労働政策審議会障害者雇用分科会において議論されており、その状況が報告された。この間、とりまとめに向けた議論も含め、計8回にわたって障害者総合支援法等の施行状況や施策の見直しに関する議論を行った。 ○ 令和3年 10 月に地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会が設置され、「精神障害者等に対する支援」について 13 回にわたり議論が行われてきた。この議論の状況については、和4年4月及び同年6月に本部会において報告・議論されたところ、今後の方向性について本報告書にとりまとめた。 ○ 以上のような審議経過を経て、ここに障害者総合支援法及び児童福祉法改正後3年を目途とする見直しの議論を本部会としてとりまとめる。政府には、本報告書に基づく今後の対応として、関係法令等の改正や次期報酬改定等について検討を進め、可能な限り早期に実現するよう取り組んでいくことを求める。 ○ なお、今回の障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しの後、今後の障害者部会における議論に当たっては、障害福祉施策に関する各論点のみならず、地域移行・地域生活の支援をどう進めていくかや、制度や障害福祉サービス等の在り方そのものに関し、中長期的な議論を進めていくことが必要である。 Ⅱ 基本的な考え方 障害者総合支援法改正法の施行後3年間の施行状況を踏まえ、今回の見直しの基本的な考え方について、「1.障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり」、「2.社会の変化等に伴う障害児・障害者のニーズへのきめ細かな対応」、「3.持続可能で質の高い障害福祉サービス等の実現」の3つの柱に整理した。こうした基本的な考え方に沿って、当事者中心に考えるべきとの視点をもち、どのように暮らしどのように働きたいかなど障害者本人の願いをできる限り実現していけるよう、意思決定の支援に配慮しながら支援の充実を図っていくべきである。その際、障害者自身が主体であるという考え方を前提に、行政 や支援者は、「ともに生きる社会」の意味を考えながら、当事者自身の言葉や発信をそのままに受け止め、当事者の目線を大切に当事者を中心として取り組み、地域住民の障害理解も促進していくことが重要である。また、家族への支援を含め、障害者の生活を支えていくという視点が重要である。 また、国際的な障害福祉に関する流れを振り返ると、平成 18 年に採択された障害者権利条約を、日本政府においては平成 26 年に批准し、それに伴う国内法の整備として、平成 24年に障害者総合支援法が施行され、障害者権利条約に沿った取組が推進されてきた。本年8月には国連・障害者権利委員会による対日審査が予定されており、今後も障害者権利条約の趣旨を尊重しつつ、こうした国際的な動き、障害者基本法など関連する国内法の動きに対応する見直しが求められる。 1.障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり (1) 障害者が希望する地域生活を実現・継続するための支援の充実 ○ 障害者の入所施設や病院からの地域移行を進め、障害者がどの地域においても安心して地域生活を送れるよう、障害者が希望する多様な地域生活の実現に向けた支援や地域生活支援拠点等の整備・充実等を図ることが必要である。 ○ どのような相談もまずは受け止める、アクセスしやすい相談体制を整備するため、地域で中核的な役割を果たす相談支援の機関を中心に、本人の希望する暮らしを形づくり、継続するための相談支援の充実・強化が必要である。 ○ こうした取組を進めるに当たっては、障害者総合支援法の基本理念である「可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること」、「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され」ること等を踏まえ、入所施設や病院からの地域移行を促進する必要があることを明確化していくとともに、親元からの自立を含めたライフステージ全体や、様々な地域生活を支える社会資源全体の基盤整備も視野に入れた、障害者本人の意思を尊重すること、個々の障害者の支援の必要性に即することを基本とした総合的な支援を進めていく必要がある。 ○ 障害者本人の意思を尊重し、希望する暮らしを実現していくためには、障害者本人に関わる支援者が一体となって丁寧に意思決定支援を実施していくことが重要である。 ○ さらに、自らも障害や疾病の経験を持ち、その経験を活かしながら障害者のための支援を行うピアサポートの取組は、障害者のエンパワメント等の観点から重要な意義があることを踏まえつつ、さらに促進していく必要がある。 ○ また、障害者支援施設については、重度障害者等に対する専門的・個別的支援の提供の推進、施設の有する知識・経験等の地域の事業者への還元等による地域への貢献などを行いつつ、施設からの地域移行を進める必要がある。 (2) 地域共生社会の実現 ○ 高齢、子ども、生活困窮等の分野の施策と連携し、相談支援や社会参加支援、居場所づくりといった支援を一体的に実施する重層的支援体制の整備が進められており、今回の見直しにおいても、誰もが社会の一員として尊厳と誇りをもって暮らすことができる地域共生社会を実現する地域づくりに資する取組を推進する必要がある。 ○ 障害者総合支援法の基本理念でも掲げられているように、「地域社会において他の人々と共生することを妨げられ」ず、「障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨と」し、第 208 回通常国会において「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(以下「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」という。)」が成立し、附帯決議が付されたことも踏まえ、障害者のコミュニケーションやアクセシビリティを円滑にしていくことが重要である。その際、判断やコミュニケーションに支援が必要な障害者の場合は、その特性に配慮したコミュニケーション支援・意思 決定支援に取り組む必要がある。また、意思疎通支援の担い手を数・質ともに確保できるよう長期的・段階的に検討していく必要がある。 ○ 文化・芸術活動やスポーツ等の分野を含め、障害者の社会参加の機会が確保され、障害の有無に関わらず、地域でいきいきと安心して健康的に暮らすことができる社会を目指し、地域住民の障害理解の促進にも取り組む必要がある。 (3) 医療と福祉の連携の推進 ○ 障害児・者の地域生活と健康を支えていくためには、本人の希望に応じた暮らしを実現する観点から、福祉と医療の両面からの支援・マネジメントが重要である。障害者の高齢化や障害の重度化、医療的ケア児や医療的ケアが必要な障害者、精神障害者、難病患者などへの支援の必要性を踏まえ、多様な障害特性にも配慮しつつ、保健・医療、福祉及びその他の施策の連携を推進することが必要である。 ○ このため、障害福祉サービスの利用や計画相談支援をはじめとする相談支援など、地域生活や就労等の様々な場面において医療と連携した支援が適切な形で行われることが重要であり、医療と福祉双方の従事者の相互理解の促進に基づく有機的な多職種の連携の在り方について、引き続き検討が必要である。 (4) 精神障害者の地域生活に向けた包括的な支援 ○ 精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、就労等の社会参加、地域の助け合い、教育・普及啓発が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築をさらに推進する必要がある。 ○ 精神障害の特性として、疾病と障害とが併存しており、その時々の病状が障害の程度に大きく影響することから、医療機関と福祉サービスとの連携を十分に確保しながら、住まい、就労等に関する支援を含め、病状の変化に応じた多様なサービスを地域で切れ目なく受けられるようにし、「支える側」・「支えられる側」という関係を超えて、相互に助け合えるようにすることが求められている。 ○ こうした取組は、地域共生社会の実現に向けても欠かせないものである。 2.社会の変化等に伴う障害児・障害者のニーズへのきめ細かな対応 (1) 障害児に対する専門的で質の高い支援体制の構築 ○ 障害児に対する支援に当たっては、障害特性や保護者の障害受容等に十分配慮しながらも、早期発見・早期支援を重視して進めることが重要である。また、発達障害の認知の広がりや女性の就業率の上昇に伴う預かりニーズの増加により、児童発達支援や放課後等デイサービスのサービス量が大きく拡大している一方で、質の確保が重要な課題となっており、支援の質の向上を図り、相談対応を含めた地域の支援体制を整える必要がある。 ○ また、地域共生社会の実現・推進の観点から、年少期からのインクルージョンを推進し、障害の有無に関わらず、様々な遊び等を通じて共に過ごし、それぞれの子どもが互いに学び合う経験を持てるようにしていく必要がある。 ○ また、障害のある子どもも、成長した後は、大人として個を尊重され、成人に相応しい環境の中で過ごすことができることが必要である。障害児入所施設に入所した児童が 18 歳以上となっても障害児入所施設に留まっている、いわゆる「過齢児」の課題については、児者それぞれに相応しい環境が確保されるよう、取組を一層進めるため、新たな移行調整の枠組みを構築していく必要がある。 ○ こうした障害児支援を検討するに際しては、障害のある子どもの最善の利益の保障を第一にしながら、家族支援の視点を大切にすること、また、教育と福祉の連携に留意しながら進められることが重要である。さらに、障害児への支援にあたっては、居宅における介護に係る支援も含め、個々の状況に応じた適切な支援の提供が図られるようにしていく必要がある。 ○ この基本的な考え方に沿って、障害児支援に関する論点については対応する児童福祉法改正法案が第 208 回通常国会(令和4年通常国会)で審議された。また、こども家庭庁の創設が第 208 回通常国会(令和4年通常国会)で審議され、障害者施策とも整合性を図り、関係省庁が緊密に連携した障害児施策の推進に取り組む必要がある。 (2) 障害者の多様なニーズに応じた就労の促進 ○ 障害者の就労とその支援は着実に進展しているものの、利用者や働き方の多様化等、障害者の就労を取り巻く環境も変化している。こうした変化や課題に対応するとともに、福祉から一般就労へつなげることも含めてさらに障害者の就労を支援するため、雇用施策と福祉施策の一層の連携強化を図りながら、障害や病気があっても本人が希望を叶え、力を発揮して活躍できる働きやすい社会を実現していく必要がある。 ○ 障害者の希望や能力に沿った就労を支援するためには、本人の就労ニーズや能力・適性とともに、就労するに当たって必要な支援や配慮を整理し、本人の可能性を狭めることなく、個々の状況に応じた適切な支援の提供につなげる必要がある。 3.持続可能で質の高い障害福祉サービス等の実現 ○ 障害福祉サービス等の利用者が多様化するとともに、障害福祉サービス等を提供する事業者が増加する中で、利用者の個々のニーズに応じた良質なサービスを提供するためには、事業者が提供する障害福祉サービス等の質の確保・向上を図っていくことが重要である。 その際、計画相談支援は障害者の生活全般を支えるものであり、中立・公平性を保ちつつ質の高いサービス提供が求められることから、相談支援専門員の資質向上をはじめとする相談支援の質の向上に引き続き取り組む必要がある。 ○ サービスの質の確保・向上に向けて、地域のニーズをより踏まえた事業所の指定の仕組みの見直しやサービスの質の適切な評価の在り方に関する検討、障害福祉分野におけるデータ基盤の整備、実地指導・監査の強化等についても、取組を推進する必要がある。 ○ 障害福祉人材の確保・育成については、管理者やサービス管理責任者等への専門職(社会福祉士、介護福祉士等)の任用や職員の研修の状況等を把握しつつ、必要な人材の確保、サービスの質の向上を図っていく必要がある。また、処遇改善や仕事の魅力発信などの取組をより一層進める必要があるほか、様々な障害保健福祉分野のサービスが整えられていく中で、サービス提供事業者にとっても事務・手続き等の負担感が少なく、わかりやすい制度の在り方を検討する必要がある。 Ⅲ 各論点について 1.障害者の居住支援について (1) 現状・課題 ○ 障害者の地域生活を支えるグループホームについては、入所施設や精神科病院等からの地域移行を推進するために整備が推進されてきた。 〇 障害者が重度化・高齢化する中、グループホームにおける重度障害者の受入体制の整備が課題であり、平成 30 年度報酬改定において新たに重度障害者に対応する日中サービス支援型グループホームが創設されるとともに、令和3年度報酬改定において重度障害者支援加算の拡充等を図られた。 ○ 一方、グループホームの利用者の中には一人暮らしや家族、パートナー等との同居を希望する者が存在している。また、グループホームについては、近年、障害福祉サービスの実績や経験が少ない事業者の参入が多く見受けられ、障害特性や障害程度を踏まえた支援が適切に提供されないといった支援の質の低下が懸念される。 ○ 平成 30 年度に障害者総合支援法のサービスとして、入所施設やグループホーム等から退居した一人暮らしの障害者等の地域生活を支援する自立生活援助が創設されたが、サービスが十分に行き渡っていない。 また、障害者の親亡き後を見据え障害者の地域生活を支える地域生活支援拠点等の整備が進められているが、約5割の市町村における整備に留まっている。 ○ 障害者支援施設は、市町村、都道府県が作成する障害福祉計画において設定された地域生活へ移行する者の数や入所者数の削減に関する目標値を踏まえ、地域移行に取り組んでいる。一方、障害者の重度化・高齢化を踏まえて、人員の確保を図りながら強度行動障害を有する者、医療的ケアの必要な者などのための専門的支援を行っている。 (2) 今後の取組 (重度障害者の支援体制の整備) ○ 強度行動障害や高次脳機能障害を有する者、医療的ケアを必要とする者等の重度障害者の支援体制の整備が課題となっている。特に、地域における住まいの場であるグループホームにおける重度障害者の支援体制の整備が課題。 ○ これまで、強度行動障害や高次脳機能障害を有する者に対する支援に関する調査研究を実施している。 ・ 強度行動障害児者の実態把握等に関する調査研究(令和3年度障害者総合福祉推進事業) ・ 強度行動障害者支援に関する中核的な人材の養成に関する研究(令和3年度障害者総合福祉推進事業) ・ 障害特性に対応した住居の構造等の類型化のための研究(令和3~4年度厚生労働科学研究) ・ 高次脳機能障害の障害特性に応じた支援者養成研修カリキュラム及びテキストの開発のための研究(令和2~4年度厚生労働科学研究) 注 令和4年度において、更に強度行動障害や高次脳機能障害を有する者の評価の在り方について検討予定。 ○ 上記を踏まえ、今後、グループホームや入所施設の役割を含め、強度行動障害、高次脳機能障害、医療的ケア、高齢化等に対応するための居住支援の在り方について、以下の論点について検討する必要がある。 ○ グループホームは、入所施設からの地域移行をより一層推進する観点から、障害者の重度化・高齢化に対応するための受入体制の整備を図っていく必要があるとともに、強度行動障害の支援はグループホームにおける個別的な支援がなじむ面がある。 障害者支援施設は、第一種社会福祉事業として自治体又は社会福祉法人という公益性の高い主体が運営している。実際に入所している障害者へのサービス提供に当たっては、施設入所者の生活の質の向上を図る観点から、障害者の重度化・高齢化を踏まえた手厚い人員体制の整備を図りながら、強度行動障害者、医療的ケアの必要な障害者などのための専門的な支援も行っている。 上記を踏まえ、グループホームと障害者支援施設の役割を検討する必要がある。 ○ グループホームにおいて、医療的ケア、強度行動障害、高次脳機能障害等の特性に対応できる専門性を持つ人材配置を推進するための方策について検討する必要がある。強度行動障害の点数が特に高い者や高次脳機能障害を有する者など特に支援が必要な者を評価するための基準を検討した上で、報酬上の評価や支援体制の在り方について検討すべきである。(※) ○ また、令和5年度末までの経過措置とされているグループホームにおける重度障害者向けの個人単位の居宅介護等の利用について、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定の影響や重度障害者に対する必要な支援を確保する観点から恒久化すべきとの意見等を踏まえつつ検討すべきである。(※) ○ 日中サービス支援型グループホームについては、重度障害者への対応ができるよう、日中・夜間も含めた常時の人員体制を確保する類型として平成 30 年度に創設されたところである。 日中の時間帯をグループホーム内で過ごす場合に必要となる支援は対象者の状況に応じて様々であり、強度行動障害に対応できる人員体制や報酬が十分ではないとの指摘がある一方、日中の人員を配置することで支援の程度に関わらず一定の報酬が支払われる仕組みであることから、支援の必要性が乏しい者の日中の利用や適切な支援の実施について懸念される状況がある。 上記を踏まえ、日中サービス支援型グループホームの制度の在り方について検討すべきである。 また、支援の質の確保について、障害福祉サービス全体とあわせて検討する必要がある。 ○ 強度行動障害を有する者への支援に際しては、強度行動障害は、生来的な障害ではなく、周囲の環境や関わりによって現れる「状態」であり、児童期からの適切な支援や、本人の特性に合った環境調整等によって、状態が大きく改善され得るものである点に十分留意して検討が進められる必要がある。また、強度行動障害を有する者に対して継続的に適切な支援を行うためには、グループホームや障害者支援施設など複数の事業所で支えていく仕組みが必要になる。 このため、グループホームや在宅で状態が悪化した強度行動障害を有する者に対し、環境を一時的に変えて、適切なアセスメントや環境調整を行った上で、本人の特性に合うよう環境調整した元の住まいや新たな住まいに移行するための集中的支援をグループホーム、障害者支援施設等で当該支援を行うための具体的方策について検討すべきである。(※) また、強度行動障害を有する者への支援に当たって環境調整が重要であることについて、施設長などの環境調整の権限を持つ者を含め支援者に伝わる方策を検討する必要がある。 ○ 地域での受入が困難な強度行動障害を有する者への支援については、強度行動障害支援者養成研修の修了者に加え、適切な指導・助言ができる中核的人材の養成や外部機関による専門的助言の活用等、より専門性の高い人員体制を確保するための方策について検討する必要がある。 ○ 重度障害者向けのグループホームなど地域のニーズを踏まえたグループホームの整備を推進する観点から、障害福祉サービス全体として地域のニーズを踏まえた事業者指定の在り方を検討するとともに、次期(令和6年度~)障害福祉計画において、重度障害者等の支援が行き届きにくいニーズについて、全体の必要量とは別に、そのニーズを見込み、整備を促していくこと等について検討すべきである。 ○ 障害特性に応じた住居に関する研究事業の成果を踏まえ、医療的ケア、強度行動障害、高次脳機能障害、高齢化等に対応した施設・設備に対応するための方策について検討する必要がある。 ○ その他、強度行動障害を有する者をはじめとする重度障害者の地域生活を支えるサービスについては、訪問系サービスを含め、その支援の状況や地域ごとの課題の実態を把握しつつ、各種サービス等の在り方について検討する必要がある。 (地域生活支援施策の充実) ○ 障害者が地域で安心して暮らしていけるよう継続的な見守りや相談等の支援を受けられる体制整備を図っていくことが必要。 ○ このため、今後、自立生活援助や地域定着支援が必要な者の状態像、状態像を踏まえた支援内容や頻度、支援が必要となる期間等に関する調査研究を実施し、 ・ 対象者の状況に応じた適切な支援ができるよう、自立生活援助の報酬を対象者の状況に応じてきめ細やかに設定するとともにICTの活用による効果的な支援、 ・ 継続的な支援が必要な者の標準利用期間及び更新の在り方について検討すべきである(※)。 ○ 自立生活援助・地域定着支援については、現行制度上、単身の者又は家族と同居する障害者であっても当該家族が障害、疾病等により支援が見込まれない者が対象となっているが、同居する家族がいる場合は家族による支援が見込まれない場合であっても支給決定がなされにくい実態があるといった指摘がある。 同居する家族がいる場合を含め、自立生活援助・地域定着支援による支援を必要とする障害者に対して、市町村が個々の状況に応じて適切に支給決定するための方策を検討すべきである。(※) 地域移行支援、地域定着支援との支援の継続性の確保や自立生活援助の整備の促進の観点から、相談支援事業者が取り組みやすくなるよう、自立生活援助の人員基準の在り方について検討すべきである。(※) ○ 各地域における自立生活援助と居住支援法人の連携を推進するための研修の実施などにより、自立生活援助事業者等と居住支援法人との連携や、自立生活援助事業者等の居住支援法人としての指定や居住支援法人の自立生活援助事業者等としての指定を推進していく必要がある。また、自立生活援助と医療との連携について推進していく必要がある。 また、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」に基づき、障害者等の要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度や登録住宅の入居者に対する家賃の低廉化補助等の制度が設けられているほか、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るため、家賃債務保証や入居支援、生活支援等を実施する居住支援法人等と地方公共団体の住宅部局及び福祉部局等が連携して活動する居住支援協議会の仕組みが設けられており、当該制度を所管する国土交通省と連携し、障害者が希望する一人暮らし等のための住宅確保の支援を推進していく必要がある。 ○ 市町村における地域生活支援拠点等の整備(緊急時における相談等により地域生活の安心感を担保する機能や体験の機会の場の提供を通じて地域生活への移行をしやすくする機能等の整備)を推進するため、必要な財源の確保について検討しつつ、市町村における地域生活支援拠点等の整備の努力義務化なども含め、必要な措置を講ずるべきである。 ○ 地域生活支援拠点等については、地域生活の安心の確保を図るための緊急時の短期入所の受入体制の整備を図るとともに、入所施設や精神科病院等における地域移行のニーズの把握と働きかけの実施、地域移行支援や体験利用へのつなぎなどの地域移行の推進に向けた役割を担うことが重要である。地域生活支援拠点等及び基幹相談支援センターの機能の明確化や、役割分担の在り方を検討するとともに、地域生活支援拠点等にこうした役割を担うコーディネーターについて、その必置化を求める意見があったことも踏まえ、配置の促進やスキルアップや養成に向けた方策を検討すべきである。(※) また、地域生活支援拠点等については、基幹相談支援センター、グループホーム、障害者支援施設、宿泊型自立訓練、短期入所など、地域の社会資源の活用による効果的な支援体制の整備を推進するとともに、福祉だけでなく、医療、行政などの関係機関との連携も含めた 24 時間の連絡体制の整備を推進していく方策やその支援の在り方を検討する必要がある。 あわせて、権利擁護や災害への対応を担う行政等の関係機関との連携について検討することも重要である。 ○ 地域生活支援拠点等について、形式的な整備が目的化している場合があるとの指摘がある。 地域生活支援拠点等については、市町村が、地域の利用者や家族等からニーズを把握し、継続的に地域のニーズを踏まえた必要な機能が備わっているか検証し、地域の実情に応じて必要な機能の強化を図っていくことが重要である。 今後、各市町村が、地域のニーズを踏まえた必要な機能が備わっているか、PDCA サイクルを通じて継続的に検証・検討するための標準的な評価指標や評価のプロセスを検討した上で、全国的に周知を図り、市町村における PDCA サイクルを通じて地域生活支援拠点等の機能の充実を推進していく必要がある。 ○ 引き続き、国として、市町村に対する地域生活支援拠点等の整備や機能の充実の働きかけの実施、好事例の周知などにより、地域生活支援拠点等の整備や機能の充実を図っていく方策を検討する必要がある。 また、都道府県については、広域的な見地から、管内市町村の地域生活支援拠点等の整備状況や機能の状況を継続的に把握するとともに、未整備市町村(とりわけ人口規模の小さい市町村)への整備の働きかけや管内市町村と現状や課題の共有を図るなどにより、 地域生活支援拠点等の整備や機能の充実に向けた積極的な役割が期待される。こうした都道府県が期待される役割を発揮するための方策について検討する必要がある。 ○ 障害者支援施設入所者に係るサービス等利用計画のモニタリングは、現状は6月毎を標準期間としている。 相談支援事業について、サービス提供事業者からの独立性・客観性の確保を図るとともに、障害者支援施設からの地域移行を推進する観点から、障害者支援施設入所者に対するモニタリング頻度を一定期間高める等により、障害者支援施設のサービス管理責任者や様々な関係者とチームにより協力・連携しつつ、地域移行を選択肢に入れた意思決定支援に丁寧に取り組むこと等について、調査研究事業に基づき検討すべきである。 (グループホームにおける障害者が希望する地域生活の継続・実現) <居住支援におけるこれからのグループホームが果たす役割> ○ 現在から 30 年程前の制度化当時は、グループホームは主に中軽度の障害者の支援を想定してきた。 しかしながらその後、入所施設や病院からの地域移行が進むとともに、グループホームの入居者自身の重度化・高齢化に対応した支援の必要性、さらに、親の高齢化等に対応した親元からの自立のサポート等の必要性が年々高まってきている。 ○ こうした中、グループホームは、住宅地等で地域との交流の機会が確保される立地にあること、より家庭に近い居住環境であること等から、障害者の地域生活における重要な選択肢の一つとなっている。 今後は、さらにこうした社会のニーズの変化に対応し、より重度の障害者を含め、安心して継続的に住まうことができるようにする役割を担うとともに、地域移行や親元からの自立をサポートし、障害者の希望する暮らしの実現を支援していく役割を担っていくことが期待されている。 こうしたグループホームの支援対象・役割の広がりに応じ、世話人などの職員配置及び勤務体系の在り方を含め、それぞれの支援が適切になされうる基準等の在り方の議論を深めていく必要がある。 <グループホームにおける安心できる地域生活の継続> ○ グループホームについては、障害者の地域における住まいの場として、地域で安心して生活を継続するための重要な役割を担っている。 引き続き、入所施設や病院からの地域移行を推進するとともに、親元からの自立の実現や、障害者がライフステージやニーズに応じて継続的な支援を受けることができるよう、グループホームについて地域のニーズを踏まえた計画的な整備を推進していく必要がある。 ○ また、グループホームについて、近年、障害福祉サービスの実績や経験があまりない事業者の参入が多く見受けられ、障害特性や障害程度を踏まえた支援が適切に提供されないといった支援の質の低下が懸念される。 グループホームを安心して利用することができるよう、グループホームの支援の質を確保するため、継続的な外部からの評価、事業所指定、監査、災害時などの業務継続等における方策について、障害福祉サービス全体における検討とあわせて検討する必要がある。 ○ グループホームで地域生活を送っていく際には、居住や社会参加等の生活全般の組み立てを支える相談支援専門員と日常生活を支えるグループホームのサービス管理責任者等が、障害者本人の意思決定をサポートしつつ、医療(主治医や訪問看護等)と連携し、あらかじめ本人の同意を得て日常的な健康状態などの必要な情報共有等を行っていくことが重要である。 <グループホームにおける一人暮らし等の希望の実現に向けた支援の充実> ○ グループホームの利用の途中で一人暮らし等の希望を持つ者や、施設や病院からの地域移行や親元からの自立に当たって一人暮らし等を希望するものの一定期間の見守り等を通じたアセスメントや一人暮らし等に向けた支援が必要な者が存在。 ○ グループホームについては、障害者総合支援法において「障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他の日常生活上の援助を行う」こととされており、また、指定基準(省令)において、住宅地又は住宅地と同程度に利用者の家族や地域住民との交流の機会が確保できる地域への立地や定員規模等の要件を設けるとともに、利用者の身体及び精神の状況等に応じた適切な支援や自立した日常生活ができると認められる利用者に対する必要な支援を行うこととしている。 ○ 上記のとおり現行のグループホームにおいても、利用者の状況に応じて「自立した日常生活ができると認められる利用者に対する必要な支援」として一人暮らし等に向けた支援を行うことも可能であるが、 ・ 障害者が希望する地域生活の実現や、 ・ グループホームの効果的な利用を通じて施設や病院からの地域移行や親元からの自立の促進 をさらに進める観点から、グループホームにおける一人暮らし等に向けた支援を充実すべきである。 ○ なお、現行制度上、生活能力の維持・向上のための訓練や支援を行う「宿泊型自立訓練」があるが、現状において、グループホームに一人暮らし等を希望する者が一定数存在し、グループホームで地域生活を送りながら一人暮らし等に向けた支援を実施している状況があり、また、住宅地等で地域との交流の機会が確保され、より家庭に近い環境であるグループホームで地域生活を送りながら支援を提供することによる効果も見込まれることから、グループホームにおける一人暮らし等に向けた支援を充実すべきである。 ○ グループホームにおける一人暮らし等の希望に対する支援の充実の検討に当たっては、障害者のライフステージやニーズに応じて、必要な時に安心してグループホームを利用できる観点を踏まえるべきである。あわせて、障害者の地域生活を支える各種の支援施策を充実・強化すべきである。 ○ 計画相談支援等におけるケアマネジメントの実施の際に、サービス等利用計画の作成やモニタリングの際に居住の場を含め本人の今後の生活の希望を把握するとともに、本人、グループホームのサービス管理責任者や相談支援専門員をはじめとする支援者、家族等も含めたチームで意思決定を丁寧に支援することについて、改めて周知する必要がある。 ○ グループホームにおいて、利用者が安心して暮らすための支援を行うとともに、グループホームの支援内容として、一人暮らし等を希望する利用者に対する一人暮らし等に向けた支援や退居後の一人暮らし等の定着のための相談等の支援が含まれる点について、障害者総合支援法において明確化すべきである。 注 現行の障害者総合支援法におけるグループホームの定義 第5条第17項 この法律において「共同生活援助」とは、障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他の日常生活上の援助を行うことをいう。 ○ また、グループホームにおいて、一人暮らし等を希望する利用者に対する支援を行う点については、グループホームは住まいの場・生活の場であり、あくまで本人の意思に基づいた希望実現のためのサポート・伴走として行われるべきものであることから、一人暮らし等への移行そのものが目的化した指導・訓練のような性質であってはならない点に十分な留意が必要である。 ○ グループホームにおける継続的な支援を希望する者については、これまで通り、継続的な支援を行うグループホームを利用できる仕組みとする必要がある。 ○ 現行のグループホームの制度上、一人暮らし等に向けた支援について、以下の仕組みが設けられている。 ① 指定基準上「サービス管理責任者の責務」として「利用者が自立した日常生活を営むことができるよう定期的に検討するとともに、自立した日常生活が営むことができると認められる利用者に対し、必要な支援を行う」旨規定 ② 原則3年以内に一般住宅へ移行する一人暮らしに近い形態の「サテライト型住居」 ③ 自立生活支援加算 500 単位(入居中2回、退居後1回限度)退居する利用者に対し、退居後の居住の場の確保、在宅サービスの調整等を行った場合に加算 ○ グループホームにおいて、利用者が安心して暮らすための支援を行うとともに、指定基準(省令)において、本人が一人暮らし等を希望する場合の一人暮らし等に向けた支援の充実を検討すべきである。(※) ① 入居中の一人暮らし等に向けた支援の充実サービス管理責任者が一人暮らし等に向けた目標や支援内容等に関する計画を作成した上で、一人暮らし等に向けた支援を行った場合に報酬上の評価を検討すべきである。(※)その際、報酬の評価に当たって特別な人員配置を要件とするのではなく、一人暮らし等を希望する者に対して幅広く支援ができる仕組みとすることも考えられる。 ② 退居後の一人暮らし等の定着のための支援の充実グループホームの事業者が退居後に一人暮らし等の地域生活の定着に向けた見守りや相談等の支援を一定期間実施できるよう、退居後における見守りや相談等の支援についての報酬上の評価を検討すべきである。(※) ○ 東京都においては、グループホームから一人暮らしへの移行に向けた支援を行う通過型グループホームの制度を設けており、一人暮らしを希望するものの直ちに一人暮らしを行うことが困難な者に対し、一定期間において、グループホームにおいて一人暮らしに向けたアセスメントや個別の課題を踏まえた一人暮らしに向けた支援を行い、本人が希望する一人暮らしに向けた支援を行っている。 事業者と利用者が共通の目的を持って、一人暮らし等に向けた支援のノウハウを活かした効果的な支援を行うことにより、本人が希望する一人暮らしへの移行に一定の効果を上げている。 ○ 障害者が希望する地域生活の実現に向けた多様な選択肢を設ける観点から、指定基準(省令)において、本人が希望する一人暮らし等に向けた支援を目的とする新たなグループホームのサービス類型を検討すべきである。(※) 検討に当たっては、対象者について、障害種別、障害程度、年齢等の一律の基準は設けず、障害者のライフステージやニーズに応じて、本人が希望により、継続的な支援を行う現行のグループホームと新たなグループホームを選択できる仕組みとする必要がある。 ○ また、新たなグループホームのサービス類型の創設の方向性について賛成との意見がある一方で、経営の難しさ、利用期間や成果主義に陥る危惧が懸念されることから現行のグループホームの支援の充実を優先すべき、人口減少社会における新たな資源投入は慎重に検討すべき、地方で実施検証してから全国展開が望ましい等の意見があった。 これらの意見を踏まえ、現行のグループホームの支援の充実を図るとともに、事業所指定や人員配置など、新たなグループホームのサービス類型の細部については、先行事例や地方における事業運営、経営面における課題等も踏まえ、調査研究事業等を実施するとともに、グループホームにおける重度障害者向けの必要な支援についての検討も踏まえ、当事者等の声を丁寧に聴きながら、地域の課題を抽出しつつ検討を進めるべきである。(※) ○ また、適切かつ効果的な事業運営を確保する観点から、 ・ 支援に当たっては、個々の課題を踏まえた一人暮らし等に向けた支援計画を作成し、一定期間の中で一人暮らし等に向けた支援を実施するとともに、退居後に地域生活に定着するための相談等の支援を実施 ・ 人員配置について、サービス管理責任者に専門職(社会福祉士・精神保健福祉士等)を常勤で配置することやピアサポーターの活用の評価 ・ 一定の利用期間を設定した上で対象者の状況に応じて更新が可能な仕組みとするとともに、新たなグループホーム事業者の責務として、一人暮らし等が難しい場合には継続的な支援を行うグループホームへの移行支援を実施することについての義務化 ・ 事業所指定に当たって運営方針等に係る協議会等への事前協議の実施や、定期的な運営状況の報告の義務化 ・ 報酬について、人員体制や支援プロセスを重視した評価とすることや地域生活への定着状況について適切に評価すること等について、丁寧に検討すべきである。(※) (障害者支援施設の在り方) <障害者支援施設における重度障害者等の支援体制の充実> ○ 障害者支援施設では、これまでも強度行動障害や医療的ケアのある方など様々な障害者に対する支援を実施しているが、個々の利用者に対する支援の質の向上に向けて、ユニット化や個室化など適切な個別支援に向けた必要な生活環境の把握を進めるとともに、障害者支援施設が果たしている専門的な支援等における役割を踏まえ、現行の人員配置や支援内容に対する報酬上の評価等について検討すべきである。(※) <地域移行の更なる推進> ○ 地域移行を更に進めるためには、障害者支援施設は地域移行を担う職員をその施設に配置するなど利用者の地域移行により一層取り組むことのほか、地域生活支援拠点等に配置されるコーディネーターが、障害者支援施設の担当職員等と地域移行に向けて連携・協力しつつ、利用者の地域移行のニーズの把握と働きかけの実施、地域移行支援や体験利用へのつなぎなどの地域移行の推進に向けた役割を担うことについて、地域生活支援拠点等の法令上の位置付けの明確化と併せて検討する必要がある。 <障害者支援施設の計画相談支援のモニタリング頻度等> ○ 障害者支援施設入所者に係るサービス等利用計画のモニタリングは、現状は6月毎を標準期間としている。相談支援事業について、サービス提供事業者からの独立性・客観性の確保を高める等により、障害者支援施設からの地域移行を推進する観点から、障害者支援施設入所者に対するモニタリング頻度を一定期間高める等により、障害者支援施設のサービス管理責任者や様々な関係者とチームにより協力・連携しつつ、地域移行を選択肢に入れた意思決定支援に丁寧に取り組むこと等について、調査研究事業に基づき検討する必要がある。 <障害者支援施設と地域の関わり> ○ 障害者支援施設では、生活介護や就労系サービスなどの日中活動系サービスや短期入所等の実施により、障害者の地域生活を支える役割を担っている。 こうした知識・経験やノウハウについて、地域の障害福祉サービス事業者に還元するなど、地域生活支援の体制づくりに積極的に関与するとともに、地域との交流や地域貢献に取り組むことについて検討する必要がある。 (地域移行、地域生活支援の更なる推進) ○ 今後も、障害者総合支援法の基本理念に基づき、地域移行、地域生活支援をしっかりと前進させていく必要がある。特に、上記の「(2)今後の取組」の「重度障害者の支援体制の整備」、「地域生活支援施策の充実」、「グループホームにおける障害者が希望する地域生活の継続・実現」、「障害者支援施設の在り方」それぞれに示した各施策は、いずれも地域移行、地域生活支援を進めていくための具体的方策として重要なものであり、まずはこれらが実効ある形で着実に進められる必要がある。 ○ その上で、更なる地域移行、地域生活支援を進めていくために、この間の地域移行の進展状況や、そのために必要な地域生活支援施策の実施状況についての実態把握を行い、各施策の検証を行っていくともに、具体的な課題については当該課題に応じた形で検討を着実に進め、障害者の地域移行、地域生活がさらに促進されるための取組を継続的に行っていく必要がある。 2.障害者の相談支援等について (1) 現状・課題 ○ 相談支援は、障害者等が希望する暮らしを送るために重要であり、障害者自立支援法により法定化され、以降も基幹相談支援センター及び地域相談支援、自立生活援助の創設や計画相談支援の対象の全利用者への拡大、自立支援協議会の法定化等を行っており、利用者数、事業所数、相談支援専門員数とも増加傾向にある。 ○ 一方で、相談支援専門員について、その人員の不足や更なる資質の向上を求める声があるほか、地域生活の支援を推進するためには各相談支援事業のなお一層の充実強化を求める声がある。 市町村が行う市町村障害者相談支援事業は、必須事業として全ての自治体で実施されているが、その内容や規模は多様であり、地域による特性や差がみられる。 基幹相談支援センターの設置は増加傾向にあるものの、設置市町村は半数程度【令和3年4月時点:約 50%】にとどまっているほか、設置済みの場合であっても地域の中核的な役割を担う機関としての機能が充分果たせていないセンターが存在する。未設置自治体においては、人材育成や支援者をサポートするための取組が地域内で実施されていないことがある。 自立支援協議会はほぼ全ての市町村及び全ての都道府県に設置されているが、具体的な課題を検討する部会の設置状況や開催頻度等は様々であり、形骸化を指摘する声がある。 (2) 今後の取組 (分かりやすくアクセスしやすい相談支援体制) ○ 障害福祉分野の相談支援は複数の事業により展開されていることから、地域の相談支援体制全体の中で、自治体、市町村障害者相談支援事業、基幹相談支援センター、地域生活支援拠点等、(自立支援)協議会、計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援等の各主体が果たす役割・機能を整理し、地域の相談支援体制構築の手引きを作成する等により普及すべきである。 その際には、社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業が実施される市町村が今後増えることを視野に入れた手引きを作成するほか、他法他施策による相談支援等との連携強化を図るための方策を検討する必要がある。 また、市町村は住民にとってわかりやすく、アクセスしやすい相談の入口を設けることが重要である。そのためには、市町村や相談支援事業所等がどのような相談もまずは受け止めると同時に、自らが担当することが適当でない場合には、適切な機関等に丁寧につなぐための地域の相談支援体制の構築が求められる。 住民がどこに相談してよいかわからない場合は市町村又は基幹相談支援センターが担うことを基本とすることを改めて明確化し、周知すべきである。 ○ 相談支援体制について、制度が複雑で分かりにくいため分かりやすい相談支援の制度の在り方について統廃合も視野に検討すべきとの意見や、就労面も含めた生活全般をコーディネートする相談窓口の整備を検討すべきとの意見があったところであり、限られた人材を効果的に活用する観点も含め、相談支援の制度の在り方について中長期的に検討する必要がある。 (相談支援専門員やピアサポーターの業務の在り方等) ○ 障害者等の地域生活の実現や継続のために必要な相談支援専門員が行う業務の在り方については、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定の影響等も踏まえつつ、障害者のケアマネジメントを担う役割を基盤とし、利用者の心身や家族を含む環境の状況により多様な支援が発生しうることを踏まえ、業務の範囲や仕組み、安定的な運営について、引き続き検討すべきである。(※) また、ピアサポーターについては、利用者と同じ目線に立って相談・助言等を行うことにより、本人の自立に向けた意欲の向上や地域生活を続ける上での不安の解消、人生における環境の変化の場面などにおける支援の効果が高いと考えられることを踏まえ、主として相談系サービスに対して、令和3年度報酬改定においてピアサポートの専門性を評価する加算が創設された。本加算は、ピアサポートの質を確保する観点から、都道府県又は指定都市が実施する障害者ピアサポート研修事業を修了したピアサポーターを配置する指定相談支援事業所等を評価する加算として創設されたところであり、都道府県・指定都市における本研修の実施を促進していく必要がある。 ピアサポートには、他の専門職にはない専門性があり、当事者であることにより安心感が醸成されることや利用者にとってのロールモデルとなり得ること、自己肯定感の向上につながること等が指摘されており、施行後の運用状況等も把握の上、こうした専門性を評価する対象サービスの在り方について検討すべきである。(※) ○ 特に、本人の希望する暮らしの実現に向けては、前提として意思形成や意思表明に対する支援を本人及び障害福祉サービス事業所の管理者やサービス管理責任者等の関係者によるチームにより丁寧に行う必要がある。 これまで、国において「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(平成29年3月)」を策定し、自治体や事業者に周知するとともに、令和2年度にサービス管理責任者や相談支援専門員の専門コース別研修として意思決定支援のカリキュラムを創設するなどの取組を行ってきたところであるが、相談支援における丁寧な意思決定支援を行うための業務体制の整備や人材養成の取組を更に促進する方策を検討すべきである。(※) ○ また、家族同士の相互支援については、当事者としての実体験に基づく情報交換や相談であり、家族支援の重要な取組である。身体障害や知的障害の分野では、当事者や家族等が相談を担う身体・知的障害者相談員の制度が設けられているが、精神障害の分野では同様の制度がないため自治体の理解が十分ではないとの意見があることを踏まえ、家族支援の重要性について理解を広げていく必要がある。 (相談支援事業の中立・公正性の確保) ○ 相談支援事業の運営において中立・公正性が担保されることの重要性を踏まえ、計画相談支援及び障害児相談支援における相談支援専門員のサービス提供事業者からの独立性・客観性を確保する方策について、調査研究等に基づき検討すべきである。 その際、相談支援事業者とサービス提供事業者の運営法人は異なる者を原則とする等が考えられるが、地域によっては相談支援事業者を実施する法人が限られる場合もあることから、地域における相談支援事業者の人員体制や運営状況などの実情を踏まえた実効ある方策を検討すべきである。(※) (基幹相談支援センターの更なる設置促進) ○ 地域の相談支援の中核となる機関である基幹相談支援センターについて、相談支援の質の向上等のため、国による一層の自治体への設置の促進に向けた働きかけや助言等とともに、必要な財源の確保について検討しつつ、障害者総合支援法における市町村による設置(複数による共同設置を含む。)についての努力義務化なども含め、必要な措置を講ずるべきである。 あわせて、主任相談支援専門員をはじめ基幹相談支援センターを担う人材の養成について、ベースとなる国家資格等との関係を含め検討し、推進していく必要がある。 また、全国の基幹相談支援センターの一覧についてホームページに掲載する等により周知する必要がある。 ○ 市町村による設置促進や複数市町村が共同設置する際の都道府県による支援が促進されるよう、障害福祉計画に係る国の基本指針において基幹相談支援センターの設置等の相談支援体制整備に係る都道府県の市町村支援についての役割を明記することや、都道府県に相談支援のアドバイザーを配置する都道府県相談支援体制整備事業(都道府県地域生活支援事業)における都道府県が行う市町村支援の具体的な取組を改めて明確化する等の方策を検討する必要がある。その際、人口10万人未満の規模の市町村等においても、基幹相談支援センターの設置が促進されるよう、広域自治体である都道府県の取り組むべき内容を具体的に示す必要がある。 (基幹相談支援センターが果たすべき役割等) ○ 基幹相談支援センターが地域における相談支援の中核的な役割を確実に果たすため、特に実施すべき業務内容を地域の相談支援体制強化の取組(特に管内相談支援事業所の後方支援やスーパーバイズ等による支援者支援、支援内容の検証)及び地域づくりと整理した上で、障害者総合支援法において、基幹相談支援センターが実施する業務として明確化すべきである。 基幹相談支援センターについては、市町村障害者相談支援事業に係る交付税措置に加えて基幹相談支援センター等機能強化事業の補助対象となっているが、特に実施すべき業務内容を地域の相談支援体制強化の取組及び地域づくりと整理することを踏まえ、その実効的な実施に資するよう、基幹相談支援センター等機能強化事業の見直しを含め地域における相談支援の中核的な役割を果たすための方策について検討する必要がある。 ○ また、広域或いは他地域、他分野の機関等が相談支援との連携を図ろうとする場合の窓口が不明確であるとの声があることから、そのような場合の窓口については基幹相談支援センターが担うことを基本とすることを改めて明確化し、周知する必要がある。 ○ 基幹相談支援センターが地域における相談支援の中核的な役割としての業務を十分に果たすことができるようにするため、人口規模等も踏まえた設置の在り方、また、人員体制の在り方等について調査研究等を実施する等により必要な対応策を検討する必要がある。 (「地域づくり」に向けた協議会の機能の強化と活性化) ○ 協議会については、障害者総合支援法に基づき、地域の関係者が集まり、地域における障害者等の支援体制に関する課題を共有し、関係機関等の連携の緊密化を図るとともに、地域の実情に応じた体制の整備について協議を行い、障害者等の支援体制の整備を図ることを目的として設置する機関であり、地域の障害者等の支援体制を整備する重要な役割を担っている。 協議会が期待される役割を果たすためには、協議会において、個別の事例を通じて明らかになった障害者や家族、地域の課題を関係者が共有し、その課題を踏まえて地域の障害福祉サービス等をはじめとしたサービス基盤の開発・改善の取組を着実に進めていく必要がある。その際、地域共生社会の実現に向けた包括的な支援体制を整備する観点を踏まえつつ、取組を進めていくことが重要である。 ○ このような状況を踏まえ、協議会において、住民の個別の課題(の分析)から地域の課題を抽出し、解決を図る機能を促進するため、障害者総合支援法において、関係機関等の協力を求めることができる旨改めて制度上明確化するとともに、守秘義務規定を設けるべきである。 また、その際には、重層的支援体制整備事業や当該事業を構成する他法他施策との連動性を十分考慮する必要がある。 ○ 協議会への関係機関等の協力にあっては、個別の課題を幅広く把握する立場にある個別支援を担当している相談支援事業所(計画相談支援、障害児相談支援、市町村障害者相談支援事業等)の参画を得ることが極めて重要であり、これらの事業者の協議会への参画を更に促進するための方策を検討すべきである。(※) ○ 協議会について、現状を把握するとともに、形骸化している場合の要因分析や好事例の収集等を行い、協議会の下に設置する専門部会の在り方を含め効果的な設置・運営、評価、周知の方法、障害者の生活や医療、住宅などに関係する各種会議との効果的な連携及び構成する関係者の負担軽減策、都道府県協議会と市町村協議会の連携等を検討する調査研究を実施した上で、その成果を活用し、協議会の設置・運営主体である市町村や都道府県が主導して官民協働による支援体制の整備が推進されるよう、必要な方策を検討する必要がある。 また、協議会について、障害当事者や家族(身体・知的障害者相談員を含む。)の参加が重要であることについて、改めて周知する必要がある。 3.障害者の就労支援について (1) 現状・課題 ○ 障害者の就労支援は、雇用施策と福祉施策がそれぞれの政策体系や政策目的を持ちつつ、連携も図りながら進めてきており、就労系障害福祉サービスから民間企業等への就職が増加するとともに【令和2年:約 1.9 万人】、民間企業等における雇用者数【令和3年6月1日時点:約 59.8 万人】も着実に増加している。 ○ 就労系障害福祉サービスの利用を希望する障害者の就労能力や適性を客観的に評価し、それを本人の就労に関する選択や具体的な支援内容に活用する手法等が確立されていないため、障害者の就労能力や一般就労の可能性について、障害者本人や障害者を支援する者が十分に把握できておらず、適切なサービス等に繋げられていない場合があるのではないかという指摘がある。 ○ 就労系障害福祉サービスについては、企業等で雇用されることを目指す者や、直ちに企業等で雇用されることが難しい者に対して、知識や能力の向上のための訓練等を実施するという趣旨・目的から、原則、一般就労中の利用は想定していない。一方、障害者の多様な就労ニーズを踏まえ、一般就労への移行の促進や雇用の継続を図るためには、一般就労中企業における支援と就労系障害福祉サービス事業所による支援の連携を強化する必要がある。 ○ 障害者の就労支援に携わる人材について、雇用・福祉分野の基礎的な知識やスキルが不十分である、実践的な研修の機会が限られている、専門人材の質・量ともに不足しているといった状況がある。また、一般就労への移行の促進や関係機関の機能・役割を踏まえた地域における一般就労後の定着支援の円滑な実施のためには、雇用・福祉施策それぞれの分野における地域の支援機関の連携を強化する必要がある。 (2) 今後の取組 (就労を希望する障害者への就労アセスメントの手法を活用した支援の制度化) <基本的な考え方> ○ 就労を希望する障害者が、本人の強みや課題、職場における合理的配慮に関する事項等を整理する機会を得ることで、 ・ 就労アセスメントの結果を踏まえて、就労先や働き方をより適切に検討・選択できる ・ 就労開始後は、本人の特性を踏まえた就労支援が受けやすくなり、その結果、知識や能力の発揮・向上につながる ・ 就労開始後の就労ニーズや能力等の変化を客観的に知るため、就労アセスメントの機会を設けることにより、就労先や働き方について改めて検討・選択ができる ことを目指すべきである。 ○ 具体的には、就労アセスメントの手法を活用して整理した情報に係る書面の作成・提供、関係機関(ハローワーク等の雇用支援機関、計画相談支援事業所、教育や医療などの関係機関等)との意見交換等を行うことにより、障害者本人が一般就労や就労系障害福祉サービス事業所などを自ら選択することや、就労開始後の配慮事項の整理等を通じて本人の能力や適性、地域社会や地域の事業所の状況に合った選択ができることを目指して、必要な支援を行う新たなサービス(就労選択支援(仮称))を創設すべきである。 ○ このため、就労選択支援(仮称)による「就労アセスメント」は、単に対象者の就労能力や適性を評価するだけのものではなく、本人と協同して、ニーズや強み、職業上の課題等を明らかにし、就労するに当たって必要な支援や配慮を整理することを含むものとして実施すべきである。 ○ また、市町村が就労系障害福祉サービスの支給要否決定を行う際の勘案事項の1つとして、就労アセスメントの手法を活用して整理した情報に係る書面を新たに位置付けることを検討すべきである。 ○ 就労選択支援(仮称)の創設にあたっては、人材の質及び量の確保を着実に行う必要があるため、実施までに十分な準備期間を確保すべきである。また、必要性が高い者の利用を促進するにあたっては、就労選択支援(仮称)の支援体制の整備状況を踏まえつつ、段階的な実施を検討すべきである。 <就労選択支援(仮称)の対象者> ○ 就労系障害福祉サービスを利用する意向のある(就労系障害福祉サービスを利用しており、支給決定の更新の意向がある場合を含む。)障害者を対象とし、年齢や障害種別等にかかわりなく、就労アセスメントの手法を活用した支援を希望する障害者が利用できることとすべきである。 ○ その上で、以下の者については、就労先や働き方を選択するに当たって就労選択支援(仮称)の利用の必要性が高いと考えられることから、就労選択支援(仮称)を就労開始時に利用することについて、支援体制の整備の状況を踏まえつつ、以下の順で段階的な促進を検討すべきである。 ① 新たに就労継続支援B型を利用する意向の者 ② 新たに就労継続支援A型を利用する意向の者及び標準利用期間を超えて就労移行支援を更新する意向の者 ○ また、就労開始前に就労選択支援(仮称)を利用することを原則としつつ、制度の円滑な実施を図る観点から、 ・ 新たにB型を利用する意向の者については、現行の取組を参考に就労経験のない者を中心に就労選択支援(仮称)の利用を促進すること ・ 新たにA型を利用する意向の者については、一定の例外的な場合(例えば、A型利用開始後も一般就労に向けた就職活動を継続する場合)にはA型の利用開始後の一定期間のうち(例:半年や1年以内など)に就労アセスメントの手法を活用した支援を利用することも可能とすること ・ 特別支援学校の生徒について、卒業後の円滑な就労の開始に支障が生じないよう、在学中に就労選択支援(仮称)を利用することを基本とした上で、現行の取組を参考に、特別支援学校による進路指導等において把握・整理される情報の活用や実施場所等について地域の状況に応じた対応も可能とすること ・ 同様のアセスメントが実施されている場合、重複しない範囲で支援すること ・ 本人の事情(障害特性や病状等)その他の合理的な事情(経済的に困窮しており早期の就労収入の確保が必要等)により、就労選択支援(仮称)の利用に困難を伴う場合を考慮すること について検討すべきである。 <就労選択支援(仮称)の内容について> ○ 就労選択支援(仮称)について、利用者が就労先や働き方をより適切に検討・選択できるよう支援する観点から、 ・ 就労に関する本人のニーズを相談等により把握するとともに、実際の作業場面等を活用し、相談場面等では把握しにくい、就労に必要な能力の整理を行うこと ・ 必要な情報の整理がスムーズに行えるよう、必要な視点が網羅された項目立てに沿って整理が進められるツールを活用することや、一般就労に向けた課題に留まらず、強みや合理的配慮を踏まえた状況なども含めて、本人と協同して状況を整理すること ・ 支援の質と中立性の確保を図るため、地域の関係機関とケース会議(協議会の就労支援部会等の場やオンライン会議等の活用を含む。)を開催すること等により、支援を通じて把握した情報や関係機関が有している情報(例えば、就労面以外の支援に関する情報や主治医からの情報など)を相互に共有すること ・ 就労に係る選択肢の幅を広げ、本人の的確な選択につながるよう、支援の実施前後において、地域における企業等での雇用事例や就労支援に係る社会資源などに関する情報提供、助言・指導等を行うこと ・ 支援後の本人の選択に応じて、計画相談支援事業所やハローワーク等の雇用支援機関との連携、連絡調整等を行い、支援を通じて整理した情報がその後の就労支援において効果的に活用されるように取り組むこと とすべきであるとともに、各地域の実情を踏まえた実施が図られるよう留意する必要がある。 ○ また、作業場面等を活用した情報の整理や関係機関とのケース会議等を含めた、就労選択支援(仮称)の支援全体を実施する期間については、実際の就労を開始するにあたって過度な負担とならないことを考慮する必要があることから、概ね2週間(最大でも2か月)程度としつつ、利用する障害者のニーズや状況に応じて、柔軟に取り扱うことを検討すべきである。 ○ なお、就労系障害福祉サービス事業所を現に利用している者が就労選択支援(仮称)を利用する場合、当該事業所が支援を通じて把握している情報について就労選択支援(仮称)の実施主体が提供を受けるなどの必要な連携を図るとともに、本人が働きながら就労選択支援(仮称)を利用することもできるよう、今後、具体的な実施方法等についても検討する必要がある。 <就労選択支援(仮称)の実施主体等について> ○ 就労選択支援(仮称)の内容を踏まえれば、一般就労中の者や一般就労に移行する者を含めた障害者に対する就労支援について一定の経験・実績を有していること(注)のほか、 ・ 地域における就労系障害福祉サービス事業所を含めた就労支援機関等の状況 ・ 地域における企業等の障害者雇用の状況等について、適切に対象者へ情報提供できることを、実施主体に求めることを検討すべきである。 注 例えば、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、障害者就業・生活支援センター、自治体設置の就労支援センター、人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)による障害者職業能力開発訓練事業を行う機関等。 ○ また、適切かつ効果的な事業運営を確保するため、 ・ 就労支援に関する一定の経験を有する人材の配置 ・ 相談や作業場面等を活用したアセスメントを行うことができる設備の確保 ・ 障害福祉サービス事業者等からの利益収受の禁止をはじめとした中立性の確保等の観点から、地域における一定の支援体制の確保に留意しつつ検討すべきである。 ○ さらに、就労選択支援(仮称)を担う人材の養成や支援体制の整備については、現在、就労アセスメントに携わっている支援機関や人材の活用も図りながら、専門的なスキルに基づいた支援を行うことができるよう、既存の就労支援に関する研修等を活用するとともに、就労選択支援(仮称)の実施に向けて、今後、国による独自の研修の構築等に向けた調査研究、地域の関係機関の連携による支援体制の整備やスキルアップに関する取組のモデル的な実施を進めることが必要である。 <就労選択支援(仮称)を含めた就労支援に関する手続き等について> ○ 就労選択支援(仮称)の利用を含めた就労支援に関する手続きについては、本人の円滑な就労の開始に支障が生じることのないよう、十分に配慮して運用していく必要がある。例えば、就労選択支援(仮称)の利用を経た上で、就労系障害福祉サービスの利用申請を行う際の支給決定(変更)に関する手続きについては、就労選択支援(仮称)を利用するための支給決定の手続きにおいて既に把握されている情報を活用するなどして、本人の負担が軽減されるように取り扱うなどの工夫を検討する必要がある。 ○ また、本人が円滑に就労を開始できるよう、 ・ 就労選択支援(仮称)の実施主体は、就労面のアセスメント及び地域の企業等に関する情報の提供を通じて、障害者本人の選択を支援する役割を担うものであること ・ 就労系以外の障害福祉サービスを併せて利用する者もいることなどを踏まえ、就労選択支援(仮称)を含めたサービス等利用計画案の作成から、就労系障害福祉サービスの支給決定後のモニタリング等までを含めた一連の流れにおいて、計画相談支援事業所が利用者のためのケアマネジメント全体を担う役割を果たすものであること を踏まえた上での連携の在り方として、就労選択支援(仮称)において本人と協同して作成するアセスメント結果等の情報を、その後の計画相談支援においてサービス等利用計画案の作成にあたって踏まえることや、就労選択支援(仮称)の実施主体からの助言等を参考にすることを検討すべきである。 ○ なお、就労選択支援(仮称)を利用した時点で把握・整理された本人の状況は、その後に変化する可能性もあることを踏まえつつ、 ・ 就労選択支援(仮称)の利用を経て本人が利用する就労系障害福祉サービス事業所やハローワーク等の雇用支援機関において、就労選択支援(仮称)の実施主体から共有された情報を活用するとともに、その後の本人の状況に応じて就労支援を進めること ・ 就労系障害福祉サービスを利用する場合には、本人に改めて就労選択支援(仮称)を利用する意向があるか、計画相談支援事業所による定期的なモニタリングにおいて留意すること ・ 一般就労する場合には、企業等においても職場環境の整備や合理的配慮の提供を検討する際に、就労選択支援(仮称)やその後の支援(産業医や衛生管理者との連携を含む。)を通じて得られた情報を活用することが重要であることから、就労選択支援(仮称)の創設の趣旨・目的や支援の内容について、就労選択支援(仮称)の実施主体だけではなく、障害者の就労支援を担う者への幅広い周知を検討する必要がある。 (一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用) <基本的な考え方> ○ 障害者の希望する一般就労の実現を多様な手法で支援するため、企業等での働き始めに週 10 時間~20 時間未満程度から段階的に勤務時間を増やしていく場合や休職から復職を目指す場合において、就労系障害福祉サービスの一時的な利用を法令上可能とすることで、 ・ 通い慣れた就労系障害福祉サービス事業所でも引き続き就労することにより、生活リズムを維持したまま、段階的に勤務時間の増加を図ることができる ・ 企業等と就労系障害福祉サービス事業所が相互に情報共有して、時間をかけながら支援することにより、合理的配慮の内容等について調整が受けやすくなるなど、その後の職場定着につながる ・ 復職に必要な生活リズムを確立するとともに、生産活動等を通じて、体力や集中力の回復・向上、復職後の業務遂行に必要なスキルや対処方法の習得などに取り組むことができる ・ 企業等における復職プロセスに沿って、主治医や産業医とも連携を図りながら対応することができ、円滑な職場復帰につながる といった効果をもたらすことや、支援の選択肢を広げて本人の一般就労への移行や復 職を支援しやすくすることを目指すべきである。 ○ 具体的には、就労移行支援及び就労継続支援の対象者として、企業等での働き始めに週 10 時間~20 時間未満程度から段階的に勤務時間を増やす者や、休職から復職を目指す場合に一時的なサービス利用による支援が必要な者を、現行の対象者に準ずるものとして法令上位置付けることとすべきである。 ○ 一方、中高齢の障害者が企業等を退職して福祉的就労へ移行する場合等については、雇用主である企業等が責任を持って雇用を継続することが望ましいという指摘や、既存の雇用施策・福祉施策と役割が重なる部分があるため整理が必要であるという指摘があることなども踏まえ、一般就労中の就労系障害福祉サービスの利用に関して、引き続き、市町村による個別の必要性等の判断に基づくものとしつつ、現行の取扱いの中でより適切な運用を図るよう検討する必要がある。<一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用の期間について> ○ 企業等での働き始めに週 10 時間~20 時間未満程度から段階的に勤務時間を増やしていく場合については、就労系障害福祉サービスの利用により、企業等で働く準備を進めた上で、勤務時間を増やす時期を目標として定めつつ、状況に応じて進めることが効果的と考えられる。このため、利用期間は原則3~6か月以内、延長が必要な場合は合計1年までとした上で、一時的な利用の後において円滑に職場定着が図られるように、個々の状況に応じて設定できる方向で検討すべきである。 ○ 休職から復職を目指す場合については、現行の運用でも就労移行支援の標準利用期間(2年)のほかに、期間を制限する取扱いは行っていないことから、これを上限として、企業の定める休職期間の終了までの期間を利用期間とすることを検討すべきである。 <適切な支援の実施が図られるための具体的な方策について> ○ 企業等及び就労系障害福祉サービス事業所それぞれにおける支援が、一般就労への移行や復職といった目的に沿って適切に行われることを確保する観点から、 ・ 一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用の必要性を検討するにあたって、考慮すべき事項や、関係機関からの助言等の在り方について整理すること(一時的な利用の前や利用中にどのような支援を実施するのか等) ・ 休職から復職を目指す場合については、一時的な利用の必要性に関して医療と連携して判断すること ・ サービス等利用計画や個別支援計画において、支援の目標や内容を具体的に整理すること ・ 企業等と就労系障害福祉サービス事業所が一時的な利用の期間中の支援内容等をあらかじめ共有すること ・ 企業等と就労系障害福祉サービス事業所が、支援内容や本人の状況の変化等を共有し、必要に応じて互いの支援内容の調整や関係機関への相談を行うなどの連携をすること ・ 関係機関が効果的な助言等を行うために、支援内容や企業等と本人との雇用契約の内容などについて情報共有すること について検討するとともに、一時的な利用を行う者の利用形態も踏まえつつ、報酬上の取扱いを検討すべきである。 ○ また、今後、円滑な活用や関係者の連携を図るため、本人だけではなく、企業等や就労系障害福祉サービス事業所、医療を含めたその他の関係機関に対して、具体的な連携方法などを含めたわかりやすい周知を行っていく必要がある。併せて、現在でも、個々の様々な事情などから、市町村による個別の必要性等の判断に基づいて、例外的に一般就労中の利用が認められているケースがあることも踏まえて、引き続き、適切な運用を図る必要がある。 ○ さらに、一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用の不適切な活用を防ぐ観点から、 ・ 企業等及び就労系障害福祉サービス事業所それぞれにおいて、活用にあたって必要となる規程等の整備、その内容 ・ 本人にとって過重な負担にならないことを前提とした企業等での勤務とサービス利用の時間の組み合わせの考え方 ・ 他の既存のサービスや施策等による支援策との機能や役割の違いについての整理等も重要であり、今後、具体的な仕組みを検討すべきである。 (障害者の就労を支えるための雇用・福祉施策の連携強化等に関する取組) <障害者の就労支援に携わる人材の育成> ○ 基礎的研修については、「雇用と福祉の分野横断的な基礎的知識・スキルを付与する研修の構築に関する作業部会」(令和3年9月~12 月)において、その実施にあたっての具体的な事項(カリキュラムのイメージや受講対象者、実施主体、実施手法等)に関する一定の整理がなされていることを踏まえ、引き続き、両分野が連携して開始に向けた準備を進めていく必要がある。 ○ 特に、受講を必須とする者に含まれている就労移行支援事業所の就労支援員、就労定着支援事業所の就労定着支援員及び障害者就業・生活支援センターの生活支援担当者について、まずは確実な受講が図られるよう取り組むとともに、更なる専門性の向上を図るため、職場適応援助者養成研修などの専門的な研修等の受講の促進について検討すべきである。(※) また、基礎的研修の運用開始後の状況や限られた財源状況等も踏まえながら就労継続支援A型及びB型事業所を含む就労系障害福祉サービス事業所の全ての支援員の受講を必須とすること等について、今後、検討を進めていく必要がある。 ○ 専門人材の高度化に向けた階層的な研修の確立については、基礎的研修が新たに実施されることに伴う現行の研修の見直しなどについて、福祉分野における人材が、それぞれの立場や役割に応じて必要な専門性を身につけて活躍することができるよう、今後、両分野が連携して具体的に検討を進めていく必要がある。 <企業等で雇用される障害者の定着支援の充実> ○ 企業等で雇用される障害者の定着を図る観点から、 ・ 就労定着支援事業においては、最大3年間の支援期間内における就労定着を図るだけでなく、この事業による生活面の支援がなくても一人の職業人として就労定着できる状態を目指して、本人や企業等と現状や方向性を確認しながら、本人が課題解決のスキルを徐々に習得できるように、本人の主体的な取組を支える姿勢で支援するとともに、支援の状況を企業等に共有することを通じて、本人の障害特性に応じた合理的配慮の検討など、企業等における雇用管理に役立つものとなるよう取り組むこと ・ 就労定着支援事業の利用前後の期間等において定着に向けた支援を担う就労移行支援事業所等や障害者就業・生活支援センター事業との役割の違いを踏まえて連携することや、現行の仕組みでは就労移行支援事業等が支援することとしている一般就労移行からの6か月間において、本人や地域の状況などを踏まえて、就労定着支援事業を活用すること などに関する方策について、就労定着支援事業の支援の実態について把握を進めた上で検討すべきである。(※) ○ また、就労定着支援事業の提供体制の現状を踏まえ、就労移行支援事業等の障害福祉サービスを経て企業等に雇用された者が、就職後の定着に向けて地域において必要な支援を受けられる環境整備を図る観点から、就労定着支援事業の実施主体に、障害者就業・生活支援センター事業を行う者を加えることを検討すべきである。(※) ○ その検討にあたっては、地域の中で補助的な役割を果たすものとすることが適当であるため、 ・ 既存の就労定着支援事業所の状況や今後の新設の見込み等の地域における実情やニーズを踏まえて連携を図ること ・ 障害者就業・生活支援センター事業の実施により蓄積されているノウハウ等を十分に活用できるよう配慮すること ・ 障害者就業・生活支援センター事業本体の運営に支障が生じることがないよう配慮すること などの観点に十分に留意して検討すべきである。(※) <地域の就労支援に関するネットワークの強化> ○ 多様な障害特性のある方の就労が進展するとともに、特別支援学校卒業時に一般就労を選択する方が増えるなど、働く障害者が増加する中で、福祉分野のみならず、企業を含めた雇用分野、学校等の教育分野等の幅広い関係者の連携による支援を充実させる必要がある。このため、必要な財源の確保について検討しつつ、障害者就業・生活支援センターにおいて必要な支援体制の確保を図るとともに、地域の実情に応じて、地域の就労支援機関に対するスーパーバイズ(個別の支援事例に対する専門的見地からの助言及びそれを通じた支援の質の向上に係る援助)や困難事例の対応といった基幹型の機能も担う地域の拠点としての体制の整備を進めていく必要がある。 ○ まずは、先進事例の収集やモデル的な取り組みを通じて、地域の就労支援機関からの具体的なニーズや効果的な手法について整理を進め、今後、各地域における支援の質の向上を図るために必要な取組が実施できるよう、具体的な方策を検討する必要がある。 <就労継続支援A型の在り方や役割の整理> ○ これまでの経緯や、就労継続支援A型の利用者・事業所や支援内容が多様であることを踏まえれば、就労継続支援A型の在り方や役割としては、障害者の稼得能力だけでなく、障害特性等を含め、一般就労が難しい障害者に就労や訓練の機会を適切に確保するための事業であることが求められるものである。今後、さらに実態の把握を進めながら、一般就労への移行も含めた利用者のニーズに沿った支援の提供や十分な生産活動の実施が図られるように、具体的な方策を講じていくことを検討すべきである。(※) ○ その際、A型における支援の質の向上や生産活動の活性化を促す観点から、・ スコア方式の導入後の状況を検証・分析した上で、より充実した支援や生産活動に取り組む事業所を的確に評価できるようにするために、どのような評価項目や評価点を設定することが考えられるか ・ 経営改善計画の作成等の措置によっても早期の改善にはつながっていない事業所があることを踏まえて、特に、複数年にわたって経営改善計画の対象となっている事業所に対して、どのような実効性のある対応を図ることが考えられるか 等について検討すべきである。(※) <重度障害者等に対する職場や通勤等における支援> ○ 「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」については、令和2年度においては2市で8人、令和3年度(令和4年1月1日時点)においては 11 市区町村で 27 人が 利用しているが、使いづらさや実施する自治体の少なさが課題となっている。重度障害者等の就労の促進を図るため、職場や通勤等における支援を必要とする方の利用がさらに拡がるよう、事業の利用が進まない背景の検証や利用事例に関する情報収集などを含めて、その実施状況を踏まえながら、特別事業の周知や必要な運用改善を行うことにより、重度障害者等に対する職場や通勤等における支援を推進していく必要がある。 4.精神障害者等に対する支援について 4―1 基本的な考え方 (精神疾患の現状) ○ 近年、精神疾患を有する患者の数は増加傾向にあり、平成 29 年には約 420 万人となっている。新型コロナウイルス感染症の影響による長期に及ぶ自粛生活等の影響もあり、令和2年9月の調査では約6割の方が様々な不安を感じており、メンタルヘルスの不調や精神疾患は、誰もが経験しうる身近な疾患となっている。 自殺者数は、平成 22 年以降は 10 年連続で減少となっていたが、令和2年には 11 年ぶりに増加に転じている。 (「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築) ○ 誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、精神障害の有無や程度にかかわらず、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労等)、地域の助け合い、普及啓発(教育等)が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築するため、令和3年3月に「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書がとりまとめられた。 ○ わが国の精神保健医療福祉行政は、戦後、精神衛生法(昭和 25 年法律第 123 号)に基づく、非営利法人が設置する精神病院等の設置・運営に要する経費の国庫補助等により、民間主体で病院・病床の整備が急速に進められたこともあり、精神科医療機関は、必ずしも医療提供基盤が十分とはいえないなか民間主体で入院医療を提供するとともに、デイ・ケア等における退院後の地域移行まで、地域のニーズに幅広く対応してきた経緯がある。 障害者自立支援法(平成 17 年法律第 123 号)を契機に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和 25 年法律第 123 号。以下「精神保健福祉法」とする。)でも地域 援助事業者との連携等が規定され、地域の障害福祉サービスの拡充が図られる中で、こうした医療機関と福祉サービスとの連携を十分に確保しながら「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築し、精神障害を有する方や精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方(以下「精神保健医療福祉上のニーズを有する方」とする。)が、居住・就労等に関する支援を含め、その病状の変化に応じた多様なサービスを身近な地域で切れ目なく受けられるようにする体制の整備が求められている。 精神保健医療福祉上のニーズを有する方が地域で希望する生活を実現し、継続することができるよう、国においては、保健、医療、障害福祉・介護、居住、就労等、経済的な基盤の確保にも資する包括的な支援を進めることはもとより、そうした基盤の充実を図っていくことが求められる。 (患者の権利擁護) ○ 精神科病院における患者の権利擁護については、 ・ 昭和 62 年に精神衛生法を精神保健法に改称し、任意入院制度を創設する ・ 平成7年に精神保健法を精神保健福祉法に改称し、医療保護入院等を行う精神科病院について、常勤の精神保健指定医(以下「指定医」とする。)を必置とする ・ 平成 11 年に精神保健福祉法を改正し、指定医が違法な処遇を発見した場合に管理者に報告して適切な対応を求める等、処遇の改善の努力義務を設ける ・ 平成 25 年に精神保健福祉法を改正し、医療保護入院を行う精神科病院について、患者の退院に向けた相談支援等の業務を行う「退院後生活環境相談員」の選任を求める 等、順次拡充を進めており、精神科病院では、こうした法令の規定に基づき、患者の権利擁護を図りながら、入院医療が提供されている。 ○ また、平成 18 年には、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする「障害者権利条約」が国連総会で採択され、我が国は、平成 19 年に署名、平成 26 年に批准し効力が発生している。 今夏目途で同条約に基づく初回の対日審査が予定されており、障害者権利委員会からは、以下のとおり、強制入院や隔離・身体的拘束等に関する事項について(注)、事前の情報提供が求められている。 ・ 措置入院、医療保護入院等を規定する精神保健福祉法等の撤廃のために講じた措置 ・ 隔離・身体的拘束等を廃止するためにとった法律上・実践上の措置 注 こうした事項について、障害者の権利に関する条約第 36 条及び第 39 条による障害者の権利に関する委員会からの提案及び一般的な性格を有する勧告が行われたときには、障害者を代表する団体の参画の下で、当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置について検討すべきである。 (地域の精神科医療機関の役割) ○ 精神疾患が誰もが経験しうる身近な疾患となる中、地域の精神科医療機関が果たすべき役割は、自治体が実施する精神保健相談の協力、協議の場への参画、多様な精神疾患に対する医療の実現、精神科以外の診療科との連携等、多岐にわたる。 一方で、精神科医療への理解が進んでいるとは言い難い状況にあり、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に向けて、地域の精神科医療機関の役割について、理解を深めていくことが重要となる。 (医療機関や福祉サービス事業者等の優れた実践的な取組の普及定着) ○ わが国の精神保健医療福祉に携わる関係者が、今後とも、精神障害者の福祉増進のため、精神保健福祉法等の法令を遵守し、患者や利用者の権利を擁護しつつ業務にあたることは当然の前提である。その上で、知恵と工夫を重ねながら、患者や利用者のニーズに応じた質の高いサービスを提供している医療機関や福祉サービス事業者等の優れた実践的な取組を法令上の仕組みとして位置付け、普及定着を図ることにより、誰もが安心して自分らしく暮らせるようにするための基盤の整備を図っていく観点も重要である。 (地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会) ○ 以上の点を踏まえ、精神保健医療福祉上のニーズを有する方が地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制を実現するため、令和3年 10 月に「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」(以下単に「検討会」とする。)が設置され、報告書がとりまとめられたところである。 ○ 検討に先立ち、検討会では、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の位置付けについて、 ・ 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に関する取組については、津久井やまゆり園事件の再発防止策を契機とした取組を含まない点について明確にすべきであること ・ そのため、退院後支援のガイドラインについては見直しを行い、退院後支援は、津久井やまゆり園事件の再発防止策を契機とした取組ではないことを明文で規定すべきであること が確認された。 4-2 精神保健に関する市町村等における相談支援体制について (1) 現状・課題 ○ 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を推進し、精神保健医療福祉上のニーズを有する方が地域で安心して暮らせるよう、身近な地域で、必要なサービスを切れ目なく受けられるようにし、「支える側」・「支えられる側」という関係を超えて、相互に助け合えるようにすることが必要であり、市町村においては、福祉分野に加え、精神保健も含めた相談支援に取り組むことが重要となる。 ○ 精神保健に関するニーズの多様化に伴い、すでに8割以上の市町村が、自殺対策、虐待(児童、高齢者、障害者)、生活困窮者支援・生活保護、母子保健・子育て支援、高齢・介護、認知症対策、配偶者等からの暴力(DV)等の各分野において、地域住民の身近な相談窓口として、精神障害者に限らず広く分野を超えて精神保健上の課題を抱えた住民を対象として、精神保健に関する相談に対応している状況にある。 ○ 精神保健に関する相談支援が全ての市町村で実施される体制が整うよう、まずは国において以下の措置を講じることにより、市町村の実施体制の整備を進めていくべきである。 (2) 今後の取組 ① 法制度に関し検討すべき事項 精神保健福祉法に関し、以下の措置を講じることが必要である。 (ⅰ) 都道府県及び市町村が実施する精神保健に関する相談支援について、精神保健福祉法に基づく相談支援を受けている精神障害者に加え、精神保健に関する課題を抱える者(注1・2)に対しても、相談支援を行うことができる旨を法令上規定するべきである。 注1 具体的には、介護保険法(平成9年法律第 123 号)や子ども・子育て支援法(平成 24年法律第 65 号)上の相談支援等、社会福祉又は保健医療に関する法律上の相談支援を受ける者であって精神保健に関する課題を抱える者とするべきである。 注2 同様に、精神保健に関する相談支援の専門職種である精神保健福祉士について、その業として、精神障害者以外の精神保健に関する課題を抱える者への相談支援が含まれる旨を明らかにするべきである。 (ⅱ) 「国及び都道府県の責務」として、(ⅰ)の市町村による相談支援の体制の整備が適正かつ円滑に行われるよう、必要な助言、情報の提供その他の援助を行わなければならないこととするべきである。 (ⅲ) 障害者総合支援法に基づき地方公共団体が単独又は共同して設置する、関係機関、関係団体、当事者その他の関係者により構成される協議会を活用し、精神保健に関する課題を抱える者を含めた地域の支援のあり方について協議を進めるべきである(注1・2)。 また、協議関係者の守秘義務を前提に、関係機関等に対し情報提供等を求めることができることについても検討を進めるべきである。 注1 協議に当たっては、行政職員、医療機関の職員、地域援助事業者、当事者、ピアサポーター、家族、居住支援関係者等の様々な立場の者が協働して議論していくことが基本となる。市町村での開催に当たっては、精神科病院協会や医師会等の関係団体、精神科医療機関、保健関係者の参加を積極的に求めていくことが必要となる。 注2 当事者、ピアサポーターがその特性を活かし、精神保健医療福祉上のニーズを有する方を尊重した支援を実施するだけではなく、精神保健医療福祉に関わる多職種との協働により専門職等の当事者理解の促進及び意識の変化や支援の質の向上等に寄与することが期待される。こうした点を踏まえ、都道府県等が当事者、ピアサポート活動の現状と課題を整理し、市町村が当事者、ピアサポーターの活動機会や場の創設に取り組むことができるよう、国においても十分な基盤の整備を検討することが重要である。 (ⅳ) これらの取組には、担い手の確保・資質向上が不可欠となるため、現在「配置が任意」とされている精神保健福祉相談員について、その配置状況を把握し、課題を分析した上で、配置を促進する方策を検討するべきである。 ② ①以外に検討すべき市町村の体制整備に関する事項 (ⅰ) 下位法令等の改正等 ・ 下位法令等を改正し、市町村が実施する精神保健に関する相談支援の位置付けを明確にするべきである。 ・ 市町村保健センター等の保健師増員等、必要な体制整備のための対応を検討するべきである。 (ⅱ) 精神科の医師・他科の医師との連携 ・ 地域の精神科医療機関は、多職種チームを持ち、患者一人一人のケースマネジメントを行うノウハウ・人材を有することから、例えば、市町村から精神保健に関する相談業務の一部を公的な地域保健活動の一環として、こうした精神科医療機関に委託し、協働して業務を行うことが考えられる。 ・ 市町村が、地域の精神科医療機関の精神科医等の協力を得て、自宅等への訪問支援を行う専門職、当事者、ピアサポーター等から構成されるチームを編成し、訪問支援の充実に取り組むとともに、「包括的支援マネジメント」の基盤構築を図っていくことも重要である。 ・ また、「かかりつけ医うつ病対応力向上研修」の活用等を通じ、他科の医師と精神科の医師との連携を強化するべきである。令和4年度診療報酬改定では、他科の医師と精神科の医師等が、自治体と連携しながら多職種で患者をサポートする体制を整備している場合の評価として「こころの連携指導料」が新設されている。 ・ 自殺で亡くなった方の中には精神疾患を経験している人もおり、特に自殺未遂者は再企図のリスクも高いことから、救命救急病院に搬送された自殺未遂者が確実に必要な精神科医療を受けられるように、また、地域の支援機関等から継続的に支援を受けられるように、支援体制の整備を図ることが必要である。 (ⅲ) 市町村への単なる好事例の周知に留まらないノウハウの共有 ・ 精神保健の相談支援に関し、市町村が利用可能な国の事業について、制度横断で分かりやすく周知していくべきである。 注 精神保健に関する課題は各分野に及ぶため、国からの交付金等についても多分野にわたる(一例として、尾道市における「こころサポート事業」では、自殺対策に関する国の交付金等が活用されている)。 ③ 市町村のバックアップ体制の充実に向けて検討すべき事項 (保健所・精神保健福祉センター等の業務の明確化、診療報酬改定) 〇 「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」「精神保健福祉センター業務運営要領」の改正を行うべきである。 〇 令和4年度診療報酬改定では、行政機関等の保健師等による家庭訪問の対象であって精神疾患の未治療者、医療中断者等に対する訪問診療・精神科訪問看護を実施した場合の評価の仕組みを創設している。今後、こうした取組による知見を踏まえつつ、令和6年度の診療報酬改定での評価を含め、さらに検討を進めるべきである。 ④ 普及啓発の充実 (メンタルヘルス・ファーストエイドの考え方の活用) 〇 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書(令和3年3月)では、精神保健医療福祉上のニーズを有する方が必要な保健医療サービス及び福祉サービスの提供を受け、地域の一員として安心して生活することができるよう、精神疾患や精神障害に関する普及啓発を推進することは、最も重要な要素の一つであり、メンタルヘルス・ファーストエイドの考え方を活用する等、普及啓発の方法を見直し、態度や行動の変動までつながることを意識した普及啓発の設計が必要であるとされた。 こうした観点から、令和3年度より、心のサポーター(精神疾患への正しい知識と理解を持ち、メンタルヘルスの問題を抱える家族や同僚等に対する傾聴を中心とした支援者)の養成に向けた研修を開始している。 (学校教育等における普及啓発の充実) ○ 検討会では、支援提供者側や制度・政策決定側の立場からの考察だけではなく、受け手である立場からの思いや知見もきちんと反映されたものという趣旨で、入院制度等について適切な在り方を形成していくためには、広く国民や当事者自身が精神保健医療福祉などに関連する総論的知見を高められる機会の充実が、地域での実際の支えの充実とともに両輪で必要との意見があった。 また、こうした精神保健医療福祉に関する総論的知見を広く国民の間で共有するためには、特に学校教育における普及啓発の充実が重要であるとの意見があった。 ○ 学校教育においては、令和4年4月より年次進行で実施される高等学校学習指導要領において、保健体育科の「現代社会と健康」に関する学習の中で、新たに「精神疾患の予防と回復」について指導されることとなっている。このような中、効果的に精神保健に関する普及啓発を行うためには、学校の教職員等に対する普及啓発や、小・中学校におけるインクルーシブ教育 システム構築の推進が重要となる。 すでに実践されているメンタルヘルス・ファーストエイドの考え方を用いた取組についても参考とすることが望ましい。 ○ こうした観点からは、 ・ 上述の心のサポーターの養成に向けた研修について、教職員に対して情報共有を行う等の取組を関係省庁と連携して検討することが適当である。 ・ 特に養護教諭については、「現在の生徒児童は、肥満・痩身、生活習慣の乱れ、メンタルへルスの問題等、多様・複雑化する課題を抱えており、養護教諭には健康診断、保健指導、救急処置などの従来の職務に加えて、専門性を生かしつつこれらの課題に対し中心的な役割を果たすことが期待されている」(文部科学省「現代的健康課題を抱える子供たちへの支援~養護教諭の役割を中心として~」(平成 29 年3月))ことを踏まえ、子供達を支援していくことが重要である。 ○ こうした取組を含め、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成 25年法律第 65 号)に基づき、不当な差別的取扱いや合理的配慮に関し、行政機関等における職員に対する研修や事業者における研修、地域住民等に対する啓発活動のより一層の充実を図り、障害を理由とする差別の解消を推進することが重要である。 (精神障害、精神疾患の理解促進に向けて) ○ 地域で医療・福祉等の必要なサービスを受け、地域の一員として安心して生活することができる体制の整備を進めるためには、精神障害、精神疾患についての理解を促進し、スティグマを解消するための取組を充実させることが必要であり、例えば、当事者、ピアサポーター、家族等と協働し、地域住民との交流の場を設置する取組を促進することが重要となる。 ○ また、精神疾患が身近な疾患となる中、地域の精神科医療機関の役割についても、理解を深められるようにすることが重要である。 市町村における協議の場は、自立支援協議会を活用していることが多く、精神科病院協会や医師会等の関係団体、精神科医療機関、保健関係者の参加が少ないとの指摘もある。精神科医療機関の役割について、地域において理解が深められるよう、市町村においては、積極的にこうした関係団体等の参加を求め、地域の精神保健福祉行政を支える行政、福祉・介護サービス事業者、当事者、ピアサポーター、家族等との間で信頼関係の醸成を図るとともに、国においても、市町村における好事例の収集や横展開等を通じた後押しを図ることが求められる。 4―3 精神科病院に入院する患者への訪問相談について (1) 現状・課題 ○ 精神科病院に入院中の患者を、当事者、ピアサポーターが訪問し、患者からの相談に応じる取組が、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に向けた予算事業において、都道府県等を主体として実践されている。 ○ また、精神科病院に入院中の患者について、第三者がその権利を擁護する仕組みの構築に向けては、平成 25 年の精神保健福祉法の改正法附則の検討規定、衆・参両議院の附帯決議で指摘されており、こうした指摘を踏まえ、これまでモデル事業や調査研究等を通じて、支援のノウハウの蓄積が進められてきた経緯がある。 ○ 現在、厚生労働科学研究において、課題の整理・検討が進められている。 (2) 今後の取組 【基本的な考え方】 ○ 精神科医療の日々の臨床では、患者のこころに関わる中で、患者の話を丁寧に聴き、患者との共感を試みる診療が実践されている。また、精神科病院では、退院後生活環境相談員による支援、退院支援委員会の開催等、法令の規定に基づき、患者の権利擁護を図る取組が行われている。 ○ 他方で、精神疾患により、本人の意思によらず入院が必要とされる場合がある。 こうした非自発的入院による患者は、閉鎖処遇に置かれており、外部との面会交流が難しくなる。家族からの音信がない市町村長同意による医療保護入院者については、医療機関外の者との面会交流が、特に途絶えやすくなる。 ○ このため、医療機関から入院に関する十分な説明や支援が行われた場合であっても、患者本人の孤独感や、これによる自尊心の低下が顕著な場合がある。外部との面会交流が実質的に遮断される状況は、本人の意思によらず入院を強制される者への処遇として、人権擁護の観点からも望ましくない。 ○ したがって、市町村長同意による医療保護入院者を中心に、精神科病院の理解のもと、精神科病院に入院する患者を訪問し、相談に応じることで、医療機関外の者との面会交流を確保することが必要となる。 【支援の内容】 ① 実施主体・枠組み ○ 支援の実施主体については、精神科病院を訪問し、患者からの相談に応じる点を踏まえ、精神科病院を所掌し、かつ、精神科病院から患者の入院届等を受理する都道府県等とすることが考えられる。 ○ こうした支援に取り組む都道府県等は、現時点、必ずしも一般的とまではいえない。 そこで、都道府県等が行う任意の事業として位置付けた上で、全国の都道府県等での事業実施を目指し、課題の整理を進めることが必要である。 ② 支援者 ○ 実施主体である都道府県等が、経歴等を踏まえて選任することが適当である。 ○ 更に、国で標準化された研修の内容を示した上、都道府県等が実施する研修の受講を必須とするべきである。 ○ 研修は、精神保健医療福祉に関する制度や現状、精神科医療における障害者の権利擁護に関する内容、傾聴を中心とする支援の趣旨を含むものとするとともに、研修内容・期間等の検討に当たっては、入院の初期段階は、患者・医師双方にとって信頼関係を構築する重要な時期である点を考慮することが必要である。 ③ 支援内容 ○ 支援者が精神科病院を訪問し、入院患者との面会交流を行う。 ○ 生活に関する一般的な相談に応じ、患者の体験や気持ちを丁寧に聴くとともに、必要な情報提供を行うことを基本とする。 ○ こうした支援の導入を図るに当たり、支援の対象者は精神科病院に入院する市町村長同意による医療保護入院者を中心とする。 ④ その他 ○ 支援者には守秘義務を求める。 ○ 制度の対象となる患者には、支援者の支援を求めることができる点について、医療機関の管理者から入院時に書面等で案内するとともに、例えば、患者の立場に立った説明文を添付する、支援の申込先や相談先等を病院内に掲示する等、患者にとって分かりやすい方法で周知するべきである。特に、指定医には、患者に分かりやすい方法で説明する役割があるものと考えられる。 ○ 都道府県等は、支援者の支援のあり方や課題について、関係者が意見交換を行う場を設けることが望ましい。 ○ 事業を円滑に実施できるよう、面会を行う精神科病院の理解を得ながら進めることが必要である。 ○ 今後の検討課題として、こうした支援を望む入院患者に支援がより広く普及するよう、調査研究等を活用し、実施体制の構築を進めていくことが必要である。 ○ 研究班の報告(注)では、支援者は、以下の点に留意することが適切であるとされている。 ・ 独立性:当事者への意思決定機関やサービス提供機関から独立していて利害関係を持たない。 ・ エンパワメント:自身や自尊心を取り戻す過程でもある。 ・ 当事者主義:本人の希望や意思に基づいて行動。 ・ 秘密を守る(守秘):プライバシーの尊重、当事者から聞いたことを他人に伝えない。信頼関係の前提。 ・ 平等:すべての当事者が平等にアクセスできること。 ・ 当事者参画:常に当事者の参画を得て進める。 注 「精神科アドボケイト養成講座」(令和3年度厚生労働科学研究「精神障害者の意思決定及び意思表明支援に関する研究」(研究代表者:藤井千代(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)) ○ 支援者の名称については、利用する患者にとって分かりやすい呼称を設けるべきである。 4-4 医療保護入院 4-4-1 医療保護入院の見直しについて (1) 現状・課題 ○ 平成 25 年の精神保健福祉法改正により、保護者制度の廃止、医療保護入院における入院手続等の見直しとあわせ、精神科病院の管理者に対する退院促進措置の義務付けが行われ、現在の医療保護入院制度が整備された。 精神科医療機関では、医療保護入院者の退院に向けた相談支援等の業務を行う「退院後生活環境相談員」の選任、退院後に利用可能な障害福祉サービス等の利用に向けた相談等を行う「地域援助事業者」の紹介、医療従事者や患者、家族等が出席し患者の退院に向けた取組等を審議する「医療保護入院者退院支援委員会」の設置等、法令の規定に基づき、患者の権利擁護を図りながら、入院医療が提供されている。 ○ 医療保護入院制度の必要性については、「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書(平成 29 年2月)によると、以下の通り、整理することができる。 ・ 精神障害者に対する医療の提供については、できる限り入院治療に頼らない治療的な介入を行うことが原則であり、その上で、入院治療が必要な場合についても、できる限り本人の意思を尊重する形で任意入院を行うことが極めて重要である。 ・ ただし、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下するという特性を持つ精神疾患については、本人が病気を受け止めきれないこともある中で、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要と考えられる。 ・ その上で、医療保護入院は、指定医の判断により入院治療が必要とされる場合であって、任意入院につなげるよう最大限努力をしても本人の同意が得られない場合に選択される手段であるということを再度明確にするべきである。 ○ 今夏目途で、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること等を目的とする障害者権利条約に基づく初回の対日審査が予定されており、障害者権利委員会からは、医療保護入院等の強制入院の撤廃等に関する事項について、事前の情報提供が求められている。患者の権利を確保するための取組をより一層推進させていくことが重要である。 ○ 諸外国においても、制度の運用方法が異なるなか、患者の同意を得ずに入院を行う制度は存在しており、権利擁護の仕組みとともに運用されている。 ○ こうした点を踏まえ、医療保護入院については、誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるよう、課題の整理に取り組み、具体的かつ実効的な方策を検討することが必要である。 ○ 検討に当たっては、(1)医療その他福祉等のサービスを患者本人の病状に応じ、地域で切れ目なく受けられるようにするためのアクセス確保の観点から、患者の症状によっては、その同意によらない入院を行えないとすると、患者の不利益につながることがあるという視点、(2)患者の権利擁護の視点の両面について、十分に勘案することが必要である。 ○ 具体的な検討に当たっては、以下の3つの視点を基本とすべきである。 ・ 視点1:入院医療を必要最小限にするための予防的取組の充実 ・ 視点2:医療保護入院から任意入院への移行、退院促進に向けた制度・支援の充実 ・ 視点3:より一層の権利擁護策の充実 (2) 今後の取組 ① 入院医療を必要最小限にするための予防的取組の充実(視点1) (基本的な考え方) ○ 医療、障害福祉・介護、住まい、就労等の社会参加、地域の助け合い、教育・普及啓発が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を推進し、医療その他福祉等の各サービスを地域の関係機関・関係者の協働・連携のもと、切れ目なく受けられるようにし、「支える側」・「支えられる側」という関係を超えて、相互に助け合いながら暮らせる地域づくりを目指すことが必要である。 (具体的な方策) (ⅰ) 患者本人のニーズの実現に向けた「包括的支援マネジメント」の推進(訪問診療・訪問看護の充実、外来患者に対する相談体制の充実、医療・福祉等の地域の多職種・多機関連携の推進等) ○ 精神障害の特性として、疾病と障害とが併存しており、その時々の病状が障害の程度に大きく影響するため、医療、障害福祉・介護その他のサービスを切れ目なく受けられる体制を整備する必要がある。 ○ 「包括的支援マネジメント」とは、こうした観点から、本人を中心として、医療・精神保健、障害福祉等の多職種・多機関が相互に連携することにより、訪問診療や訪問看護、障害福祉サービス等のサービスを継続的かつ包括的に受けることができる体制の整備を進めるものである。 ○ 以下の方策等を通じ、こうした「包括的支援マネジメント」の推進をより一層図っていく必要がある。 ・ 現在、モデル事業として、精神科医療機関と地域生活支援拠点等に配置され、両者の連携を支援するコーディネーターを中心に、医療・福祉分野の多職種・多機関の関係者が連携し、精神障害者の地域生活の実現に向けた支援内容を明確にするための事業を進めている。 ・ また、令和4年度診療報酬改定では、行政機関等の保健師等による家庭訪問の対象であって精神疾患の未治療者、医療中断者等に対する訪問診療・精神科訪問看護を実施した場合の評価の仕組みを創設するとともに、医療機関の精神科外来に通院する重点的な支援を要する患者に対し、多職種による包括的支援マネジメントに基づいた相談・支援等を実施した場合の診療報酬上の評価の仕組みを創設している。 ・ 今後、こうした取組による知見を踏まえつつ、令和6年度の診療報酬・障害報酬の同時改定での評価を含めて検討を進めるべきである。 (ⅱ) 患者の緊急のニーズに対する受診前相談及び入院外医療等の充実 ○ 精神症状の急性増悪、精神疾患の急性発症等、患者の緊急のニーズに対する精神科救急医療体制は、精神保健医療福祉上のニーズを有する方の地域生活を支える重要な基盤であり、重層的な支援体制のもとでの平時の対応並びに受診前相談及び入院外医療(夜間・休日診療、電話対応、在宅での診療、訪問看護等)の体制整備とあわせ、入院治療(急性期)へのアクセスを 24 時間 365 日確保することが必要となる。 ○ 受診前相談については、精神医療相談窓口や精神科救急情報センターの体制整備に向けた支援が進められており、地域の実情を把握しながら、より一層の充実を図ることが重要である。 ○ 昼夜を問わず、患者の緊急のニーズに対応できるよう、今後、地域の実情に応じた受診前相談の体制整備、時間外診療への対応や入院の要否に関する判断の診察、在宅での診療、訪問看護等の入院外医療の更なる充実について、診療報酬等の評価を含めて検討を進めるべきである。 ② 医療保護入院から任意入院への移行、退院促進に向けた制度・支援の充実(視点2) (具体的な方策) (ⅰ) 入院期間について ○ 精神科病院においては、退院支援委員会や定期病状報告の仕組みを通じ、入院中の患者の任意入院への移行や退院促進に向けた支援のほか、急性期のチーム医療では、クリニカルパス(院内標準診療計画書)を活用した早期退院の取組等が進められている。 他方で、現行の精神保健福祉法では、入院時に任意入院が行われるよう努める旨の規定が置かれている(第 20 条)が、入院中の患者について、任意入院への移行を求める明文規定は設けられていない。 ○ 入院治療を含めた精神科医療は、本人の意思を尊重する形で行われることが重要であり、患者の同意を得ることが困難な状況で入院を開始することを要した場合にも、その後の症状等の変化に応じて対応する必要があることから、医療保護入院中の患者についても、その症状に照らし本人が同意できる状態になった場合は、速やかに本人の意思を確認し、任意入院への移行や入院治療以外の精神科医療を行うことが必要である。 ○ こうした確認は、入院中に日々行われるものであるが、制度上もこうした確認が確実に行われることを一定の頻度で担保できるよう、医療保護入院の入院期間(注) を定め、精神科病院の管理者は、この期間ごとに医療保護入院の要件を満たすか否かの確認を行うこととするべきである。 注 具体的な期間について、医療保護入院者における当初の入院計画での予測入院月数は、6割以上の入院者が「3ヶ月以上6ヶ月未満」とされていることを踏まえ、「3ヶ月ごと(入院から6ヶ月経過後は6ヶ月)」とすることが考えられる。また、検討会では、入院期間の短縮を図る観点から「1ヶ月ごと(入院から6ヶ月経過後は3ヶ月)」とする意見もあった。 ○ また、検討会では、具体的な検討を進めるに当たっては、現行の退院支援委員会、定期病状報告等の制度との整合性に留意する必要があるとの意見や、本人の意思に反して入院させる心理的な負担を家族に繰り返し求める点に配慮が必要との意見があった。さらに、入院期間を定める場合には、入院届の審査を担う精神医療審査会の事務が増加することも考えられることから、適切な人員上の手当を含む対応について検討が必要との意見があった。 こうした制度上の枠組みのほか、入院期間の短縮化に向けては、入院が長期に及ぶ背景について、調査研究等を活用して実態に即した検討を長期的な視野で進めるべきである。 ○ 具体の制度及び実際の運用の在り方の検討を進めるに当たっては、こうした意見についても考慮していくことが必要である。 (ⅱ) 退院促進措置の実態を踏まえた拡充策 ○ 退院促進措置の実態に関する調査(注)では、 ・ 平成 25 年改正の退院促進措置の導入により、新規入院患者の退院促進に向けた院内連携は着実に進展している ・ 長期入院者の退院に向けては、地域援助事業者等との地域・院外での連携等、地域により課題が見られる ・ 医療保護入院以外の入院者に対する退院措置のあり方にも課題が見られる ・ こうした現状に照らし、担当者調査では、医療保護入院者の早期退院に必要と感じている取組として、家族への適切な支援のほか、行政・基幹相談支援センター・市町村障害者相談支援事業・地域支援者・ピアサポーター・弁護士等司法関係者の関わり、診療報酬の見直しが挙げられるとされている。 注 令和3年度障害者総合福祉推進事業「退院後生活環境相談員の業務と退院支援委員会の開催等の実態に関する全国調査」(公益社団法人日本精神保健福祉士協会) ○ こうした結果を踏まえ、 ・ 医療保護入院以外の入院者についても退院促進措置の対象とすべきである。 注 また、退院支援委員会の対象者を拡大(現行、原則として在院期間が1年未満の医療保護入院者が対象→これを在院期間が1年以上の医療保護入院者にも拡大)すべきである。 ・ こうした対象者の拡大や、地域援助事業者等との更なる連携を実現しつつ、支援の質を担保していく観点からは、専門職の活用が重要となるため、必要な人員等が確保できるよう、診療報酬における適切な評価を含めた検討を行う必要がある。 (ⅲ) 長期在院者への支援 ○ 長期在院者の支援に向けては、実際に訪問し、一人の顔の見える患者、自治体の住民の一人として支援を進めていく取組が重要と考えられ、そうした観点から、市町村が地域生活支援事業として実施する障害者相談支援事業実施要領においては、権利擁護のために必要な援助の例として「精神科病院を訪問し、入院患者の退院に向けた意思決定支援や退院請求などの権利行使の援助を行うよう努めること」とされている。 慣れない環境での入院治療はそれだけで孤独や不安を伴うなか、病院の中で、十分に自分の気持ちや状況について話を聞いてもらえない、説明が得られない、伝えてはみたが上手く伝わらない等の体験が重なることで、当初抱えていた孤独や不安が増大し、これにより、次第に退院を諦めざるを得なくなり、長期在院につながっていくことが考えられる。 こうした観点から、市町村の長期在院者への支援については、当事者、ピアサポーターとの協働のもと、長期在院者自身の視点から行われることが望ましい。そのため、市町村において都道府県等と連携しながら、当事者、ピアサポーターと協働できる体制の構築を進めていくことができるよう、国においても十分な基盤の整備を検討することが重要である。 ○ 地域生活の実現に向けては、利用者と同じ立場に立って相談・助言等を行うことが、本人の不安の解消や、自分は一人ではないという安心やエンパワメントにつながっていくという観点を踏まえ、令和3年度の障害福祉サービス等報酬改定において、ピアサポートの専門性について新たに評価が行われている。 ○ 国においても、長期在院者支援に積極的な自治体の取組を支援するとともに、先進的な自治体の取組が全国の市町村で実施できるように共有を図るなど、市町村のバックアップを進めるべきである。 また、退院促進措置に係る連携先として、地域援助事業者に加え、地域生活支援事業において障害者相談支援事業を実施する市町村を追加すべきである。 ③ より一層の権利擁護策の充実(視点3) (具体的な方策) ○ 病院管理者が医療保護入院を行った場合に医療保護入院者に対して書面で行う告知の内容について、現行の精神保健福祉法では、入院措置を採る旨、退院請求・処遇改善請求に関すること、入院中の行動制限に関することが定められている。 ○ こうした入院措置がどのような理由から行われたのか、患者が医師から説明を受ける機会を保障するとともに、入院措置を行う精神科病院の管理者について慎重な判断を促し、患者の権利擁護を図るため、告知を行う事項として、新たに入院を行う理由を追加すべきである。 都道府県知事等が行う措置入院についても、同様の対応を行うべきである。 ○ また、医療保護入院の同意を行う家族等は、退院請求権や処遇改善請求権を有することから、告知を行うことが求められる旨を明文で規定すべきである。 ④ 今後の検討課題について ○ 誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるよう、今後、患者の同意が得られない場合の入院医療のあり方などに関し、課題の整理を進め、将来的な見直しについて検討していくことが必要となる。 ○ その際には、以下の観点から検討することが必要である。 (患者の同意が得られない場合の入院医療のあり方に関する基本的な考え方) ・ 医療へのアクセス確保の観点から、患者の状況・症状によっては、その同意によらない入院を行えないとすると、患者の不利益につながることがあるのではないか。 ・ 患者本人の同意がない場合の入院手続について、精神科と他科とで対応を区別する合理性があるか。 ・ 他方で、精神科の入院患者については、その特性を踏まえた入院手続とともに、退院等に向けた支援や入院中の処遇の改善、入院から退院までの患者の権利擁護に向けた支援の内容・担い手等、他科の場合よりも充実した権利擁護の仕組みが必要ではないか。 ・ また、検討会において、平成 24 年6月の「入院制度に関する議論の整理」で示された考え方に対しては、患者の同意が得られない場合の入院医療の必要性が、直ちに現行通りの医療保護入院の必要性を意味するものではないため、両者を区別して検討すべきとの意見があった。こうした意見を踏まえた上で、今後、患者の同意が得られない場合の入院医療のあり方について、さらに検討を行うことが必要ではないか。 (患者のニーズに応じた医療の提供等) ・ 統合失調症の急性期の状態等にあり患者が明確に同意を拒否している場合がある一方、認知症等により病状は安定しているものの患者自身が有効な同意の意思表示を行えない場合が増えている現状も踏まえ、精神疾患の特性により、様々な場合があり得ることを念頭に置く必要があるのではないか。 ・ 認知症等の入院患者が増えている現状のもと、患者の状態に応じた適切なサービスを提供し、生活の質(QOL)を向上させる観点からは、今後精神病床のダウンサイジングと並行して患者のニーズに応じた医療・居住の場の整備を進めていくための方策の在り方について、既存の制度の枠組みに限ることなく検討していくことも重要ではないか。 (関係者の負担等) ・ さらに、患者が医療にアクセスすることが阻害されないようにしつつ、医療機関や患者、現行法では同意を行うことが求められている家族等、特定の者に過度の負担を求める仕組みとならないように留意することも必要ではないか。 この点、検討会において、現行の医療保護入院制度については、患者の長期入院の一因となっているとの指摘があること、入院に当たって同意を行う家族等にとっては、精神的負担や本人との関係性の悪化等、過度の負担を伴う面があることから、廃止も含めて検討して欲しいとの意見があった。また、代替策のない状況で現行の制度の廃止の方向性を示すことは困難であり、患者の同意が得られない場合の入院に関し、十分な議論が必要との意見があった。 (海外の制度との対比等) ・ 精神疾患を有する患者は、権利擁護の仕組みを含め、どのような体系で入院医療を受けることができるのか、海外の制度と対比しながら、患者の同意が得られない場合の入院医療のあり方について、総合的な検討を進めることが必要ではないか。 4-4-2.医療保護入院の同意者について (1) 現状・課題 ○ 「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書(平成 29 年2月)では、現在の家族等同意の機能について、入院することを本人に代わって同意することではなく、①医師の判断の合理性(説明に対する納得性)、②入院治療が本人の利益に資するかについて、本人の利益を勘案できる者の視点で判断する点にあると整理できるとされている。 その上で、①については、現在の家族等同意では、家族等に医学的な専門知識まで必ずしも求めてはおらず、医師が家族等に対し、理解しやすいよう丁寧に病状や入院治療の必要性等を説明した上で、家族等が医師の説明に納得して判断できれば足りると考えられる、②については、家族等には、本人についての情報をより多く把握していることが期待されていると考えられる、とされている。 ○ 検討会では、家族等同意については、同意したことで家族の精神的負担や本人との関係性の悪化につながるため、廃止してほしい、また、市町村長同意については、医療機関の判断を追認する形で手続が行われているのではないか、との意見があった。 (2) 今後の取組 (同意者についての議論) ○ 医療保護入院の同意者に関する検討会での意見を整理すると、以下の表のようになる。 同意者 (現行)家族等 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ 血縁の家族、居住先の公的な市町村は必ず存在する。 ・ 家族については、本人の情報をより多く把握していることが期待でき、本人の利益を勘案できる者と考えられる。 課題 ・ 家族への負担 ・ 家族状況の複雑化により、必ずしも家族が本人の利益を勘案できない場合がある。 同意者 (現行)市町村長 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ 血縁の家族、居住先の公的な市町村は必ず存在する。 ・ 家族については、本人の情報をより多く把握していることが期待でき、本人の利益を勘案できる者と考えられる。 課題 ・ 医療機関の判断を追認する形にならないか。 同意者 指定医のみ 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ 2人の指定医による医学的な判断。 課題 ・ 同一医療機関の指定医では、独立した判断とはなりにくい。 ・ 指定医が足りない現状では、実際上困難な面がある。 同意者 代理人 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ あらかじめ支援者を登録。 課題 ・ 本人が入院を拒否している時点において、過去に登録した者の同意がどのような効果を持つのか、慎重な検討を要する。 同意者 病院外の精神保健福祉士 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ 精神保健福祉士には、患者の権利を擁護する役割がある。 ・ 入院すべきか、地域の中で医療提供すべきかの観点が求められる。 課題 ・ 非自発的入院への同意は、権利擁護を図るという精神保健福祉士の任務とは馴染まないのではないか。 同意者 司法 前提の考え方 ・ 医療保護入院の必要性については、病気の自覚を持てない場合があり、症状の悪化により判断能力そのものが低下する特性を持つ精神疾患については、自傷他害のおそれがある場合以外にも、入院治療へのアクセスを確保する仕組みが必要とされている(平成29年2月「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書)。 ・本人の人権擁護の観点からは、指定医の医学的判断について、適正な第三者による確認が必要。 理由 ・ 非自発的入院について、手続的な確認が可能。 課題 ・ 医学的な専門性を伴う判断について、法律家が実体的に否定することは実際上困難な面がある。 (医療保護入院の同意者について) ○ 医療保護入院の同意者について、現状では、家族等、市町村長以外の同意者を想定することは現実的には容易でないため、家族等同意及び市町村長同意については、現行の仕組みを維持することになるものと考えられる。 ○ ただし、家族等同意についての家族等の負担、市町村長同意についての医療機関の判断の追認に係る意見については、検討会での議論も踏まえ、適切な対応を検討すべきである(注)。 ○ その上で、引き続き、今後の医療保護入院患者数の推移等を踏まえながら、適切な制度のあり方を検討していくことが必要である。 注 具体的に考えられる方策の具体例 ・ 家族等同意:入院医療を必要最小限にするための予防的取組の充実、緊急時における受診前相談及び入院外医療の充実、精神疾患や精神障害に関する普及啓発(特に学校教育における普及啓発)、予算事業を活用した家族同士の交流の場の提供 ・ 市町村長同意:現行の「市町村同意事務処理要領」に基づく事務処理の要請 4-4-3.本人と家族が疎遠な場合等の同意者について (1) 現状・課題 ○ 家族等同意の機能は、本人について多くの情報を把握し、「本人の利益を勘案できる者の視点で判断する点にある」と整理されているが、本人と家族が疎遠な場合等は、こうした機能を期待することは困難な場合がある。 ○ 他方で、市町村長同意は、現行の精神保健福祉法において「家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合」とされているため、疎遠であっても家族がいる場合等は、当該家族の意向を確認する必要がある。 (2) 今後の取組 ○ 長期間の音信不通等により家族が同意・不同意の意思表示を拒否する場合、家族がどうしても同意・不同意の判断を下せない場合等、当該家族の意向を確認することができない場合は、市町村長が同意の可否を判断できるようにすべきである。 ○ また、例えば、患者本人と家族等との間でDV、虐待等が疑われるケースの場合は、DV防止法や虐待防止法等の規定による一時保護等の措置の対象となっているかについて、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、市町村等の公的機関への確認を通じ、客観的に判断することもあり得ると考えられる。したがって、こうしたケースについては、DV、虐待等の関係にある家族に代わり、市町村長が同意の可否を判断できるようにすることについて、実務的な課題の整理を行いながら、検討することが適当である。 ○ さらに、検討会において、医療保護入院の同意については、家族等ではなく、基本的に市町村長が行うこととしてはどうか、との意見もあった。今後、本人の利益を勘案できる者の視点で判断するという家族等同意の意義、市町村の体制整備のあり方と事務負担への影響についても勘案しながら、さらに検討を進めていくことが必要である。 4-4-4.精神医療審査会について (1) 現状・課題 ○ 「精神医療審査会に関するアンケート調査」調査報告書(令和4年3月 公益社団法人日本精神保健福祉士協会)では、 ・ 委員の確保が困難、委員の日程調整が難航する等の理由で審査期間が長期化している現状 ・ 精神医療審査会の事務局が、必ずしも処遇改善請求までには至らない、医療機関に訪問し、患者の話の傾聴や情報提供を行うといった業務についても、患者の権利擁護の観点から担っている現状が把握された。 ○ 精神医療審査会については、行政機関との関係性が必ずしも明確ではない中で、委員の確保や委員間の日程調整が整わず、退院等請求の審査期間が長期化する等、専門的機関としての機能が十分に果たせていないとの指摘がある。 (2) 今後の取組 ○ 精神医療審査会の機能向上に向けては、全国精神医療審査会連絡協議会との意見交換を行うなど、審査会の実態を把握した上で、引き続き、実効的な方策を検討する必要がある。研究事業による分析を深め、精神医療審査会運営マニュアルの改正を目指すべきである。 ○ また、措置入院者については、現在、定期病状報告の際に精神医療審査会の審査の対象としているが、国際人権B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約))9条4項の趣旨を踏まえ、精神保健福祉法において、措置入院を行った時点で速やかに精神医療審査会の審査を実施できるようにすることが望ましい。 ○ さらに、精神医療審査会運営マニュアルでは、合議体を構成する医療委員、法律家委員及び保健福祉委員について、審査に係る患者と一定の関係性がある場合等に議事に加わることができないと定められているが、保健福祉委員について、具体的にどのような者が想定されるかは示されていない。そうした点を踏まえ、保健福祉委員について、具体的には、精神保健福祉士、保健師、看護師、公認心理師等が想定されるが、都道府県知事等の判断により、例えば、当事者や家族も含めることができることを示すべきである。 4-5 患者の意思に基づいた退院後支援 (1) 現状・課題 ○ 退院後支援については、廃案となった平成 29 年精神保健福祉法の改正法案に盛り込まれていたところ、国会での審議を踏まえ、「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」(平成 30 年3月厚生労働省障害保健福祉部長通知)が示されている。 ○ まず、退院後支援のガイドラインについて見直しを行い、退院後支援については、津久井やまゆり園事件の再発防止策を契機とした取組ではないことを明文で規定することが必要である(注)。 注 こうした明文規定に関連し、検討会では、 ・ 廃案となった平成 29 年精神保健福祉法の改正法案については、退院後支援のガイドラインによる取組の実態等を踏まえ、さらに検討する旨、当時の厚生労働大臣が答弁している(平成30 年7月3日参議院厚生労働委員会)ことから ・ 検討会が、もし、廃案となった平成 29 年改正法案について、ガイドラインによる取組の実態等を踏まえた検討を行うのであれば、それは、津久井やまゆり園事件の再発防止策を契機とする過去からの流れを引き継いでしまいかねない との意見があった。 ○ その上で、入院形態を問わず、退院後支援を行うものとされるガイドラインとの乖離がなくなるよう、退院後支援の推進に向けた方策を整理していくことが求められている。 (2) 今後の取組 (ガイドラインに基づく退院後支援の推進に向けた施策) ○ 患者の意思に基づいた退院後支援は、入院早期から支援体制を構築し、病院と連携しながら、多職種・多機関の協働を図るものであり、「包括的支援マネジメント」の一環としての位置付けを有する。 ○ より一層充実した退院後支援を実現していくためには、広く患者の入院形態を問うことなく支援が行われるよう、より一層の推進策の検討が必要である。 ○ そうした観点のもと、引き続き、退院後支援の効果等を見極めつつ、診療報酬における適切な評価を含めた検討を行う必要がある。 (警察の会議への参加) ○ 警察の関与を心配に思う当事者がいる一方、警察の支援を希望する当事者がいることを踏まえ、警察の会議への参加の可否について検討することが必要である。 ○ 退院後支援のガイドラインでは、「会議には防犯の観点から警察が参加することは認められず、警察は参加しない」と明記されている。例外的に警察が支援関係者として、「警察が支援関係者として本人の支援を目的に参加することは考えられるが、この場合は、本人及び家族その他の支援者から意見を聴いた上で、警察以外の支援関係者間で警察の参加についての合意を得ることが必要である。この際、本人が警察の参加を拒否した場合には、警察を参加させてはならない」と規定されている。 これは、単に本人の同意の下で参加するという規定では、強引に同意を求めていく状況も考えられるためであるとされている。 ○ ガイドラインにおいては、警察の会議への参加について慎重な手続が求められているが、こうした手続を設けてもなお警察の関与を心配に思う当事者がいるとの意見を踏まえ、関係省庁から各都道府県警察に対して、法令の規定に基づく適切な個人情報の取扱いを求める通知を発出し、地域によって対応にばらつきが生じないよう依頼する等の対応を検討すべきである。 4-6 不適切な隔離・身体的拘束をゼロとする取組 (1) 現状・課題 ○ 隔離・身体的拘束は、精神保健福祉法上、精神科実務経験を有し法律等に関する研修を修了した指定医の専門的知見に基づき、代替方法によることは困難であり、医療・保護を図る上でやむを得ないと判断された場合に、必要最小限の範囲で行われる。 このように、精神科医療機関における隔離・身体的拘束は、法律の規定により、患者の権利擁護に十分配慮することとされている。 ○ 精神科病院の医療は患者のために行われるものであり、患者の尊厳が確保されることが何より重要である。誰もがいざというとき、安心して信頼できる入院医療を実現するには、患者の権利擁護に関する取組がより一層推進されるよう、実際の医療現場において、精神保健福祉法の規定に基づく適正な運用が確保されることが必要である。 ○ 今夏目途で、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること等を目的とする障害者権利条約に基づく初回の対日審査が予定されており、障害者権利委員会からは、隔離・身体的拘束の廃止のための措置等に関する事項について、事前の情報提供が求められている。患者の権利を確保するための取組をより一層推進させていくことが重要である。 ○ 諸外国においても、現状では、やむを得ない場合に患者の隔離・身体的拘束を行う制度が存在しており、人権擁護の仕組みとともに運用されている。 ○ そうした観点から、不適切な隔離・身体的拘束をゼロとすることを含め、隔離・身体的拘束の最小化に、管理者のリーダーシップのもと、組織全体で取り組み、行動制限最小化を組織のスタンダードにしていくことが求められている。 (2) 今後の取組 (処遇基準告示(注)の見直し等) 注 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 37 条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和 63 年厚生省告示第 130 号) ○ 以下の方策により、不適切な隔離・身体的拘束をゼロとすることを含め、隔離・身体的拘束の最小化の取組を総合的に推進すべきである。 ① 現在「基本的な考え方」で示されている切迫性・非代替性・一時性の考え方について、処遇基準告示上で要件として明確に規定するべきである。 ② 単に「多動又は不穏が顕著である場合」に身体的拘束が容易に行われることのないよう、「多動又は不穏が顕著である場合」という身体的拘束の要件は、多動又は不穏が顕著であって、かつ、 ・ 患者に対する治療が困難であり、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれが切迫している場合や ・ 常時の臨床的観察を行っても患者の生命にまで危険が及ぶおそれが切迫している場合 に限定し、身体的拘束の対象の明確化を図るべきである。 その上で③④のプロセスにより、組織全体で①の3要件を満たすか否か、②の定義に当たるかどうかを判断できる体制を構築するべきである。 この点に関し、検討会では、「多動又は不穏が顕著である場合」は拡大解釈のおそれがあるため要件から削除すべきとの意見、身体拘束を原則廃止すべきとの意見、治療の必要性の要件については身体的拘束について新たな対象を生み出すおそれがあるのではないかとの意見があった。また、治療の必要性の観点も考慮されるべきとの意見があった。 さらに、検討会では、点滴等生命維持のために必要な医療行為を行うための身体固定について、短時間の場合であっても一定のルールのもと行うこととすべきではないかとの意見があった。また、精神病床以外の病床における身体拘束の現状や取扱いを含め、幅広い観点から検討すべきではないかとの意見や、介護分野における取組を参考にすべきとの意見があった。 今後、「多動又は不穏が顕著である場合」という要件を見直すに当たり、非代替性の要件の判断手法や行動制限最小化委員会の在り方に関する課題を含め、調査研究等により、告示の見直し内容とあわせ、実際の運用について、具体的な現場の指標となるよう、検討を深めていくことが必要である(注1~3)。 注1 この点、検討会では、障害当事者の立場の構成員から、隔離・身体的拘束については、医療・保護の観点から必要な場合があることに関し、制度としてそうした仕組みとされている点は認識しているものの、患者にとっては、経験するに耐え難い苦痛・感情を伴うものであり、適切であるか不適切であるかを問わずゼロを目指すべきとの意見があった 。 注2 非代替性の要件の適正な判断に資するとともに、隔離・身体的拘束を限りなく最小化していけるよう、国や医療関係者等が、身体的拘束に至らないための代替手段について、精力的な検討を行い、医療現場において研鑽や実践を続けていく必要がある。 注3 これまでの医学の進歩により精神疾患の病像や入院患者の処遇に大きな改善がもたらされたように、医学・医療の進歩により将来的には隔離・身体的拘束を必要としない精神科医療を実現し得る可能性について、当事者とともに希望を持ち、今後も、精神医学・医療の研究を包括的に推進していく必要がある。 ③ 隔離・身体的拘束の最小化について、管理者のリーダーシップのもと、組織全体で取り組む。隔離・身体的拘束の可否は、指定医(注)が判断するとともに、院内の関係者が幅広く参加したカンファレンス等において、病院全体で妥当性や代替手段の検討を行う旨を明示するべきである。 注 指定医については、患者の人権を守るため、管理者とともに行動制限最小化に組織全体で取り組み、行動制限の最小化を組織のスタンダードにできるようにしていくことが期待されている。 国としても、指定医の資質を担保した上で、安定的な確保に向けた方策を検討するとともに、指定医研修のシラバスを定期的に見直し、研修の機会を通じて、指定医に直接に訴えていくことが必要である。 ④ ③と同様、行動制限の最小化を管理者の責任のもと組織のスタンダードにしていく観点から、以下の内容を新たに規定するべきである。 ・ 行動制限最小化委員会の定期的な開催 ・ 隔離・身体的拘束の最小化のための指針の整備 ・ 従業者に対し、隔離・身体的拘束の最小化のための研修を定期的に実施 ⑤ さらに、隔離・身体的拘束を行うに当っては、現在、患者にその理由を「知らせるよう努める」とされているところ、法律に基づく適正な運用を担保すべく、これを「説明する」と義務化するべきである。 その際、当該説明については、単に形式的に行われるのではなく、入院中の処遇に関するものとして患者がその内容を十分に把握できるようにすることが重要である。このため、処遇改善請求等の権利内容についても説明するとともに、患者がその内容を把握できない状態にある場合は、再度説明を行う必要がある旨を明らかにするべきである。 ⑥ こうしたプロセスを確保し、隔離・身体的拘束を最小化するための診療報酬上の取扱いを含む実効的な方策を検討するべきである。 ⑦ 検討会では、上記の他、重度訪問介護を利用している障害支援区分6の入院中の患者は、コミュニケーション支援について重度訪問介護の活用が可能となっている。さらに入院中の利用者の状態像や支援ニーズ等に関するデータ等の収集を行い、入院中の重度訪問介護の利用によるコミュニケーション支援等の必要性を判断する基準や指標等を検討する必要があるとの意見があった。 4-7 精神病床における人員配置の充実について (1) 歴史的経緯 ○ わが国の精神医療行政においては、精神病院法(大正8年制定)により、公的精神病院を設置する考え方が初めて明らかにされたが、公立精神病院の設置が進んでいない状況もあり、民間の代用精神病院制度が設けられた(注1・2)。 注1 代用病院制度:精神病院法では、⑴内務大臣は道府県に精神病院の設置を命じることができ、道府県が設置した精神病院は地方長官の具申によって当該命令により設置したものとみなすことができる、⑵内務大臣は⑴の精神病院に代用するため私立精神病院を指定することができる(代用精神病院)とされた。 注2 昭和6年には、患者総数7万余人に対し、収容人員は 1.5 万人程度(うち公立精神病院:0.2万人程度、私立精神病院:1万人程度)とされている。 ○ 戦後、精神衛生法(昭和 25 年制定)により、精神病院の設置が都道府県に義務付けられたものの、昭和 29 年7月の全国精神障害者実態調査によって、精神障害者の全国推定数は 130 万人、うち要入院は 35 万人で、病床はその 10 分の1であった。 このため、同年、精神衛生法が改正され、民間精神病院の設置・運営に要する経費の国庫補助の規定が設けられ、民間病院を中心とした病院・病床の整備が進められた。5年後の昭和 35 年には約 8.5 万床に達する等、精神障害者に対する医療保護の充実が図られた。 ○ 医療従事者の確保・養成が課題となる中、昭和 33 年には厚生事務次官通知(注1)が発出され、いわゆる「精神科特例」として、精神科病院における配置標準(注2)については、医師は他の病床の3分の1、看護師は他の病床の3分の2と規定された。 注1 厚生事務次官通知に関して、昭和 33 年各都道府県知事宛厚生省医務局長通知において、医師の確保が困難な特別な事由があると認められるときは、暫定的にこれを考慮した運用も止むを得ないことが示された。 注2 医療法上、人員配置標準を満たさない場合であっても、直ちに業務停止とは連動されておらず、最低基準ではなく「標準」とされている。 ○ こうした歴史的な経緯もあり、民間精神科病院については、必ずしも十分とはいえない基盤のもと、地域における過大なニーズに対応する役割を担ってきたとの指摘もある。 (2) 今後の取組 (人員配置の充実について) ○ いわゆる「精神科特例」については、昭和 33 年の厚生事務次官通知により定められていたが、平成 13 年の医療法改正に伴い、当該通知は廃止されている。 ○ 医療法上、精神病床については、一般病床・療養病床と異なり、病床種別上、機能が細分化されていないという違いがある。 〇 こうした中で、精神病床における人員配置については、療養病床と同等の配置標準が設けられているほか、診療報酬上、急性期の精神病床については、一般病床と同程度の医師・看護師の配置を求め、早期に退院できるよう促している。 また、実際の医療現場において、必要に応じ、こうした配置標準を上回る人員が配置されている。 ○ 「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」における平成 24 年の意見の整理でも、今後の方向性として、病床の機能に応じ、看護職員に加え、精神保健福祉士、作業療法士、理学療法士等の多職種の従事者による人員配置とする旨が示されている。 ○ 入院患者数に応じて、精神病床について医療計画に基づき適正化を図っていくとともに、入院患者に対してより手厚い人員配置のもとで良質な精神科医療を提供できるよう、個々の病院の規模や機能に応じ、医師・看護職員の適正配置や精神保健福祉士、作業療法士、公認心理師等を含む適切な職員配置を実現していくことが求められる。 4-8 虐待の防止に係る取組 (1) 現状・課題 ○ 医療機関の従事者による身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、放棄・放置、経済的虐待といった虐待行為はあってはならないものである。障害者への虐待は障害者の尊厳を害するものであり、障害者に対する虐待を防止することは極めて重要である。精神科医療機関においては、都道府県等を通じ、虐待行為の発生防止に加え、早期発見、再発防止に向けた対応を行っている。 ○ また、令和2年3月に報道された精神科病院における虐待事案を受け、 ① 精神科医療機関に対し、虐待事案の発生防止や早期発見の取組強化、事案が発生した場合の都道府県等への速やかな報告を要請するとともに ② 都道府県等が行う実地指導において虐待が疑われる事案の把握を強化し、虐待が強く疑われる場合は、事前の予告期間なしに実地指導を実施できることとする等、指導監督の徹底を図っている。 (2) 今後の取組 (障害者虐待防止法に基づく虐待防止措置の徹底) ○ 管理者のリーダーシップのもと、虐待行為の発生防止、早期発見、再発防止に向けた取組を組織全体で推進し、より良質な精神科医療を提供することができるよう、虐待を起こさないことを組織風土、組織のスタンダードとして醸成していくための不断の取組が重要となる。 ○ こうした観点から、国においても、医療機関及び都道府県等に対して、障害者虐待防止法第 31 条の虐待防止措置の取組例について周知を進め、虐待行為の発生防止、早期発見、再発防止の徹底を図っている。 ○ 精神科医療機関の中には、病棟単位での倫理カンファレンスの実施、患者や家族の声の傾聴等を通じて、虐待が起きないようにするための組織風土を醸成することにより、虐待行為の潜在化防止を図る取組も見られることから、医療従事者による積極的な取組を行う現場づくりを実現していくことも重要である。 (虐待行為が生じた場合の早期発見の仕組み) ○ 障害者福祉施設等では、障害者虐待についての市町村への通報の仕組みが設けられ、定着が進んできた。通報制度の運用により、虐待の早期発見のみならず、虐待を起こさない組織風土の醸成に資する効果が見られているとの指摘もあり、施設が積極的に通報制度を活用している例も報告されている。 注 障害者虐待防止法は、刑罰を加えることを目的としていない。すなわち、市町村への通報は、「すべての人を救う」として、利用者の被害を最小限にするとともに、虐待した職員や施設の関係者の責任も最小化されることから、 より軽微な段階で通報しやすい組織風土の醸成を図り、もって障害者の権利利益の擁護に資する仕組みとして位置付けられている。 ○ 現在のところ、医療機関は、障害者虐待防止法に基づく通報義務の対象とされておらず、通報者保護の仕組みが設けられていないが、精神科医療機関においては、とりわけ入院の対象が精神障害者であり、障害者の権利擁護を図ることが重要であることや、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に当たって精神科医療機関の地域での役割が今後ますます重要になることに鑑み、虐待防止の取組を一層推進することが求められる。 こうした観点から、自治体との協働のもと、虐待を起こさない組織風土を構築し、虐待の未然防止を一層推進するとともに、仮に虐待が発生した場合にあっても、早期発見や再発防止を図ることが期待されている。 ○ 精神科医療機関において、こうした取組を幅広く進めていくため、すでに実施されている虐待防止措置の推進に加え、従事者等が虐待を発見した場合にこれを自治体に伝えるとともに、伝えた者の保護を図ることが望ましい。このような仕組みについては、検討会では、障害者虐待防止法を改正して設ける考え方と、精神保健福祉法を改正して設ける考え方について議論が行われ、双方を支持する意見があったが、いずれにしても、精神科医療機関における虐待行為の早期発見、再発防止に資する実効的な方策となるよう、制度化に向けた具体的な検討を行うべきである。 (虐待防止委員会の開催等) ○ 虐待が起きないための組織風土の構築にも資するよう、虐待防止委員会の開催(注)、虐待防止のための指針の整備、虐待防止のための研修の実施等についての規定を設けることを検討すべきである。 注 外部の第三者を活用するための方策の検討が必要である。 5.障害福祉サービス等の質の確保・向上について (1) 現状・課題 ○ 障害福祉サービス等の質の確保・向上については、これまでも、指定障害福祉サービス等の人員配置や設備・運営に関する基準の設定、都道府県等による指導監査、障害福祉サービス等報酬による評価、障害福祉サービス等情報公表制度等により、実施されてきた。 ○ このような取組を踏まえつつ、障害福祉サービス等の利用者の多様化や障害福祉サービス等を提供する事業者の増加に対応し、利用者の個々のニーズに応じた良質なサービスを提供する観点から、事業者が提供する障害福祉サービス等の質の確保・向上をより一層図っていくことが重要である。 ○ このうち、障害福祉サービス等の質の評価については、指定基準において「提供するサービスの質の評価を行い、常にその改善を図らなければならない」とされている。また、社会福祉法に基づく福祉サービス第三者評価については、障害福祉分野での受審実績は限られている。 ○ 障害福祉サービス等情報公表制度については、事業者はサービス等の内容や運営状況を都道府県知事等へ報告すること及び都道府県知事等はその内容を公表することが義務付けられているが、全ての事業者の情報公表には至っておらず、その記載内容にばらつきが見られる。 ○ また、データに基づいた政策の企画立案が重視される中で、介護分野においては、要介護認定情報、介護レセプト等情報の収集等について、「介護保険総合データベース」として整備・運用されており、データの利活用による実態把握に基づいた政策の企画立案や報酬改定が行われているが、障害福祉分野においては、こうしたデータベースがなく、国が関係データを包括的に収集・調査分析等する仕組みを持ち合わせていない。 (2) 今後の取組 (障害福祉サービス等の質の評価) <基本的な考え方> ○ 今後、サービスの質の評価についてさらに検討を進める上では、 ・ 利用者本人の希望やニーズに十分対応したサービスが提供されているか、 ・ 閉鎖的にならず、外部に開かれた透明性の高い事業運営が行われているか、 ・ 専門的な知見も踏まえたより質の高い支援や、地域ニーズを踏まえた支援・取組が行われているか、 といった視点が重要である。また、サービスの質の評価に関する仕組みを導入するに当たっては、一律の仕組みとするのではなく、こうした視点やサービスごとの特性を踏まえつつ、多様な主体による自己評価や外部評価など、それぞれのサービスに適した評価の仕組みを検討する必要がある。 また、検討に当たっては、事業所の規模の大小にかかわらず、取り組むことのできる仕組みとすることや、利用者本人の希望やニーズを反映して評価する際には、本人の意向を丁寧に汲み取ることが重要であることに留意が必要である。 なお、以下の新たな取組だけでなく、社会福祉法に基づく福祉サービス第三者評価の仕組みといった現行制度についても、引き続き活用を促していくことが必要である。 <事業運営の透明性を高めるための評価の仕組み> ○ 居住や生活の場であり、運営が閉鎖的になるおそれのあるサービス類型については、地域の関係者を含む外部の目を定期的に入れることが、事業運営の透明性を高め、一定の質の確保につながるものと考えられ、介護分野の運営推進会議を参考とした仕組みを導入することが有効と考えられる。 ○ このため、指定基準において、対象となる事業者に対し、 ・ 関係者や関係機関が参画する評価の場(地域連携運営会議(仮称))を定期的に開催し、サービスの提供状況等を報告して会議による評価を受け、必要な助言等を聴く機会を設けること、 ・ 当該会議の内容について記録を作成し、公表すること、 を義務付ける方向で、その具体的な評価の実施方法や評価基準等の詳細について調査研究を進めることが必要である。まずはグループホームと障害者支援施設について、サービスごとの特性に応じた評価基準等の作成について検討することが必要である。 その際、介護分野における先行事例である運営推進会議や外部評価の実施状況や課題も参考としつつ検討を進めることが必要である。 <事業所間の学び合いにより地域全体として支援の質を底上げする仕組み> ○ 専門的な知見も踏まえたより質の高い支援や、地域ニーズを踏まえた支援が行われているかという観点から、それぞれのサービス内容に通じた専門的な知見を有する者が参画する仕組みが馴染むサービス類型もあると考えられる。特に、通所系・訪問系サービスにおいては、地域の事業所が協働して、中核となる事業所等が中心となって、それぞれの事業所の強み・弱みを分析し、互いの効果的な取組を学び合いながら、地域全体として支援の質の底上げを図る仕組みを検討することが必要である。この仕組みの検討に当たっては、適切な主体が中核となって実施することが必要であり、その担い手の一つとして、(自立支援)協議会の活用も有効と考えられる。 ○ 具体的には、障害児通所支援においては、今通常国会に提出された児童福祉法改正法案において、児童発達支援センターは地域の障害児支援に関する中核的な役割を担うこととされている。こうした枠組みを活用し、児童発達支援センターにおいて、各事業所における自己評価・保護者評価の結果を集約し、各事業所とともに、それぞれの事業所の強み・弱みを分析し、互いの効果的な取組を学び合いながら、より良い支援の提供につなげていくことを検討することが必要である。 ○ また、計画相談支援及び障害児相談支援については、サービス等利用計画案及び障害児支援利用計画案の作成等を通じて利用するサービスの種類や量の決定に関与するなど、障害者の生活全般に影響を及ぼすこと等から、すでに地域で協働して(基幹相談支援センター等が中心となって)業務やプランの点検(プロセス評価)等に取り組みつつあるところであり、引き続きこうした取組を推進していくことが必要である。 <利用者・地域のニーズに応じたサービス提供であるかという観点からの評価の仕組み> ○ 利用者本人の希望やニーズに応じたサービス提供を行うことは、全ての障害福祉サービス等における支援の基本であり、児童発達支援及び放課後等デイサービスについては、すでに事業者の自己評価及び利用者(保護者)評価を指定基準上義務付けており、実施しなかった場合の報酬減算によるペナルティも設けるとともに、評価ガイドラインも示している。このような利用者評価については、全ての障害福祉サービス等において重要なものと考えられ、将来的には、指定基準において実施を求めていくことが望ましい。 ○ ただし、利用者評価についても、評価の参考とするための評価基準をサービス類型ごとに示すことが必要であり、サービスごとに順次検討し、対象を拡大していくことが適当である。その際、まずは上記のとおり、グループホームや障害者支援施設について検討する「地域連携運営会議(仮称)」方式の一環として、利用者からの評価についても当該会議の議題として取り上げることを想定し、検討していくことが必要である。 ○ また、就労系障害福祉サービスの事業所の中には、地域の人口や働き手が減少する中で、地域の農林水産業と連携した取組が行われ、また、地域住民の食事の場や集いの場となっている事業所もある。このような取組に関しては、農福アワードという形で表彰も行われており、また、障害福祉サービス等報酬により地域と協働した取組を評価する加算も一部で設けられている。障害福祉サービスの事業所が地域・地域住民のニーズに合わせ、応えるように日々の取組を行うことは、人口減少の中で地域共生社会を構築し、また、障害に関する理解と関心を広める上で重要であるだけでなく、地域の活性化にも資することから、このような取組をさらに推進することについて検討することが必要である。 (障害福祉サービス等報酬によるサービスの質に係る評価) ○ サービスの質の評価については、医療・介護分野(診療報酬・介護報酬)においては、ストラクチャー(構造)、プロセス(過程)、アウトカム(結果)の3つの視点からアプローチがなされている。 ○ こうした視点に基づき、改めて、障害福祉サービス等報酬について整理すると、 ・ ストラクチャー指標は、ほぼ全てのサービスにおいて、専門職も含めた人員の配置による加算等を設定 ・ プロセス指標は、いくつかのサービスにおいて、特定の個別支援、就労、医療などの関係機関との連携、農福連携などの地域との協働等を実施した場合の加算等を設定 ・ アウトカム指標は、就労系サービスなど一部のサービスにおいて、就労定着率など実績に応じた基本報酬の評価や加算の設定 が行われている。 ○ プロセス指標やアウトカム指標は、利用者に対するサービス内容そのものを一層評価することに資すると考えられる。このため、今後の障害福祉サービス等報酬改定の検討等に当たっては、 データの十分な蓄積及び分析を図りながら、ストラクチャー、プロセス、アウトカムの3つの視点を持って、障害福祉サービス等の目的・特性も踏まえ、プロセスの視点に基づく報酬の評価をより充実させつつ、アウトカムの視点に基づく報酬の評価についても、こうした手法が適切なサービスを整理した上で、その導入について研究・検討していくことが必要である。その際、障害福祉は医療や介護と異なる面もあるため、定量的評価のみに偏らないよう留意することが必要である。(※) (障害福祉サービス等情報公表制度) <公表率向上のための対応> ○ 障害福祉サービス等情報公表制度については、利用者の良質なサービスの選択に資すること等を目的として創設されたものである。 利用者への情報公表と災害発生時の迅速な情報共有を図るため、事業所情報の都道府県知事等への報告・公表をさらに促進する観点から、報告をしない事業者に対する指導監査を徹底するとともに、指定の更新の際に指定権者が公表の有無を確実に確認し、都道府県知事等への報告・公表ができない理由が認められない場合を除き、指定更新の条件とするなどの方法について検討する必要がある。(※) <利用者にとってわかりやすい公表のための対応> ○ 利用者にとってわかりやすく、良質な事業者の選択に資するようにするため、公表システムの記載内容を検証し、わかりやすい記載内容を抽出した上で、自由記述欄を中心に記入例や実際の記入内容を例示として示すなど、記載内容のばらつきの是正を図るような取組を進める必要がある。 (障害福祉分野におけるデータ基盤の整備) ○ 障害福祉分野において、将来的にサービスの質の更なる向上等を図る観点も含め、障害福祉計画の作成、実施及び評価並びに障害者の動向の把握等に資するため、「介護保険総合データベース」に相当するデータ基盤を整備することが必要である。その際、自治体からのデータ提供の根拠や匿名化した情報の取扱いに関する規定など介護保険法と同様の仕組みを設けるべきである。 ○ また、収集したデータを、疫学的な視点と行政や支援の現場の視点で分析することができるよう、大学等の研究機関で研究に活用できるようにすることが重要であることから、匿名化された情報を提供する仕組み(第三者提供)を設けるべきである。 ○ なお、第三者提供においては、医療や介護の情報等と連結させた分析を行えるようにすることにより、障害福祉分野の情報だけではわからない実態に関する分析を行うことが可能となると考えられることから、障害福祉分野においても、医療や介護を含む保健医療福祉分野の公的データベースの情報と連結解析が行えるような仕組みを設けるべきである。 (実地指導・監査の強化) ○ 実地指導・監査の機能について、その他の質の向上に係る取組と合わせて強化するため、不適切な事業所が多いサービス等の実地指導・監査を重点実施するとともに、都道府県等監査担当職員と専門家の連携など各都道府県等の実地指導・監査の取組の好事例や指導監査マニュアルの作成等の実施の検討を引き続き進める必要がある。 6.制度の持続可能性の確保について (1) 現状・課題 (障害福祉サービス等事業者の指定の在り方) ○ 都道府県及び市町村は、障害福祉計画又は障害児福祉計画を定め、その中で障害福祉サービス等の提供体制の確保に係る目標、各年度における障害福祉サービス等の種類ごとの必要な量の見込み等を設定している。 ○ 障害福祉サービス等の供給が地域のニーズに対して過剰なものとならないよう、都道府県知事等は、事業者の指定に当たっては、入所施設、生活介護、放課後等デイサービス等に限り、その指定を拒否することができる総量規制の仕組みが設けられている。 ○ 一方、政令市、中核市以外の一般市町村は、障害福祉計画等において必要なサービス見込み量等を定めることとされているにも関わらず、事業者の指定においては基本的に一般市町村は関与できない仕組みとなっており、利用者の障害特性等のニーズに応じた事業所の適切な整備がなされていない可能性があるとの指摘や、市町村が知らない間に新規事業者の指定が行われるケースがあるとの指摘がある。 (障害福祉分野におけるICT活用等の推進) ○ 成長戦略フォローアップ(令和3年6月 18 日閣議決定)では、「障害福祉分野における介護ロボットやICTの導入についても、介護分野での状況を踏まえて取組を進める。」とされている。また、各種記録や計画の作成、職員間の迅速な情報共有・相談助言、移乗介護等の介護業務、相談支援、自立生活援助等の地域生活を支援する業務等について、ICT活用やロボット導入により、業務効率化や職員の業務負担軽減をより一層推進することができると考えられる。 (障害福祉サービス等における人材確保と育成) ○ 障害福祉サービス等を安定的に提供するためには障害福祉人材の確保が重要である。障害福祉人材の処遇改善については、これまでの累次にわたる処遇改善加算を通じた取組に加え、本年2月から福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金による引き上げの措置が講じられ、10 月以降は臨時の報酬改定により同様の措置が継続されることとなっている。 ○ また、障害福祉人材が不足している要因については、職員の処遇のみならず、キャリアアップや職場環境、利用者や家族からの職員に対するハラスメント等も関係している可能性があると考えられる。 (2) 今後の取組 (障害福祉サービス等事業者の指定の在り方) <基本的な考え方> ○ 市町村は、障害福祉サービス等の支給決定を行うとともに、障害福祉計画及び障害児福祉計画を定め、その中で障害福祉サービス等の提供体制の確保に係る目標、各年度における障害福祉サービス等の種類ごとの必要な量の見込み等を設定しており、地域における障害福祉サービス等のニーズや地域の実情を最もよく把握できる主体と考えられる。 ○ このため、地域ごとの障害福祉サービス等のニーズや地域の実情を適切に踏まえた事業所の整備が進むようにするためには、事業者の指定に障害福祉計画等を策定する市町村が関与することが重要と考えられる。 <障害福祉計画等におけるサービス等の提供体制の確保に係る目標等の充実> ○ 障害者・障害児や家族のニーズに応じて必要なサービスを提供するためには、障害福祉計画等に基づく計画的なサービス提供体制の確保が重要であるところ、現状では、 市町村がサービス種別ごとの見込み量を市町村計画に記載した上で、都道府県計画では、より広域な障害福祉圏域を標準として見込み量を定めることとされている。このため、よりきめ細かい単位での地域のニーズを計画に記載してサービス提供体制の確保を推進するなど、地域ニーズに応じたサービス提供に向けた計画策定の在り方についても検討を深めることが必要である(注)。また、市町村が障害福祉計画等を策定する際には、都道府県の意見を聴かなければならないこととされており、今後とも、計画の策定に当たって、市町村と都道府県との間で密接な連携を図ることも重要である。 注 例えば、計画において、 ・障害者等にとって身近な地域で支援が受けられるよう事業所整備を進める観点から、地理的条件や経済的な関係、地域移行に関する取組状況なども踏まえ、市町村内の一定の地域単位で必要量を見込んでいくこと ・サービス種別ごとの必要量のみならず、特定の障害特性を有する者についてのサービスの過不足の状況を明らかにすること <地域ごとの障害福祉サービス等のニーズに応じた事業者指定の仕組み> ○ 都道府県知事が行う事業者指定に対し、市町村が障害(児)福祉計画との調整を図る見地からの意見を申し出ることを可能とし、都道府県知事は当該意見を勘案して事業者指定に際し必要と認める条件を付すことができるようにする仕組み等により、地域ごとの障害福祉サービス等のニーズや地域の実情を適切に踏まえた事業所の整備を進めるべきである。 ○ この仕組みの実施に当たっては、地方自治体においてその趣旨が正しく理解され、適切に運用されるよう、市町村の意見や都道府県が付する条件の具体例を示すとともに、以下のような運用上の留意点を周知するべきである。 ・この仕組みの目的は、地域における障害福祉サービス等のニーズを踏まえた必要なサービス提供体制の確保であること ・市町村の意見や都道府県が付する条件の内容は、市町村や都道府県が、障害当事者をはじめ、事業者、雇用、保健、介護、児童福祉、教育、医療等の幅広い関係者の意見を反映して策定する障害(児)福祉計画等に記載されたニーズ等に基づき検討されるべきこと (障害福祉分野におけるICT活用等の推進) 〇 障害福祉現場の業務効率化及び職員の業務負担軽減を更に推進していく必要があることを踏まえ、令和4年度の調査研究事業においては、IT関係の専門家、リハビリテーション専門職、福祉工学等の専門家などの専門的知見に基づき、各ICT機器やロボットの導入に係る効果の定量的評価(業務量や業務時間の短縮など)について科学的、実証的な測定・検証を行うこととしており、この調査研究を含め実証データの収集・分析を進めながら、ICT活用やロボット導入の推進の方策について具体的な検討を行っていくことが必要である。 ○ ICT活用やロボット導入を推進するにあたっては、施設や事業所における生産性の向上だけでなく、障害者本人のQOL向上の視点や安全管理体制、サービスの質の確保も重要であることから、調査研究の実施に当たっては、このような点も留意しながら進める必要がある。 ○ 障害福祉分野における施設・事業所に対するICT活用やロボット導入の経費等の支援については、以上のような検討を踏まえつつ、より効果的な手法を推進することが必要である。 〇 また、障害者に対するICT機器の紹介や貸出、利用に係る相談等を行う「ICTサポートセンター」における取組などを進め、障害者本人のICTの利活用の促進等を図っていく必要がある。 〇 この他、障害福祉分野におけるICT技術の活用については、障害特性に応じた支援や障害者支援に関する情報提供なども含め、引き続き進めていくことが必要である。 (障害福祉サービス等における人材確保と育成) ○ 福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金と本年 10 月からの臨時の報酬改定による処遇改善に着実に取り組むとともに、公的価格評価検討委員会の検討を踏まえ、障害福祉職員の処遇改善や職場環境の状況について調査・分析し、現場のニーズや政策目的に照らして、より効果的で簡素な仕組みとなる方策について更に検討する必要がある。 ○ ICTの活用やロボットの導入については、障害福祉分野の人材の事務負担の軽減や業務の効率化にも資すると考えられるため、更に推進する必要がある。 ○ 今後、令和3年度の調査研究事業において作成したハラスメント対策マニュアルの周知を進めるとともに、事業所における職員研修のための手引き等を作成することで、利用者、家族等によるハラスメント対策を推進する必要がある。 ○ 障害福祉サービス従事者の確保が困難となっている状況を踏まえ、人材確保において課題となっている要因等について、職員の声や職場のハラスメントの状況等も含めて把握を図るとともに、障害福祉サービス等事業所における人材の確保・定着方策の好事例の共有を図ることを検討する必要がある。 7.居住地特例について (1) 現状・課題 ○ 障害福祉サービス等の支給決定は、原則として、障害者又は障害児の保護者の居住地の市町村が行うこととされているが、障害者が障害者総合支援法に規定する特定施 設に該当する施設に入所した場合、施設所在市町村の財政負担を軽減する観点から、その支給決定は施設入所前にその者が居住していた市町村が実施することとする居住地特例が設けられている。 ○ 地方分権改革に関する自治体からの提案において、介護保険施設等の入所者が障害福祉サービスを利用する場合、介護保険施設等が所在する市町村に障害者福祉に関する財政的負担が集中する、利用申請手続を行う市町村が介護保険サービスと障害福祉サービスで異なり、利用者の負担になっている、との指摘があった。 (2) 今後の取組 ○ 介護保険施設等を居住地特例の対象に追加すべきである。その際、対象とする介護保険施設等は介護保険制度の住所地特例の対象施設等(注)と同様とすべきである。 注 特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設、有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を含む。)、軽費老人ホーム、養護老人ホーム(ただし、地域密着型施設を除く。) 8.高齢の障害者に対する支援について (1) 現状・課題 ○ 我が国の社会保障制度の体系においては、あるサービスが公費負担制度でも社会保険制度でも提供されているときは、保険料を支払って国民が互いに支え合う社会保険制度によるサービスをまず利用するという「保険優先の考え方」が原則となっている。 障害福祉制度と介護保険制度の関係についても、この原則に基づき、障害福祉制度と同様のサービスを介護保険サービスにより利用できる場合には、まずは介護保険制度を利用する制度となっている。 ○ ただし、その運用に当たっては、一律に介護保険サービスが優先されるものではなく、申請者ごとの個別の状況を丁寧に勘案し、介護保険サービスだけでなく障害福祉サービスの利用も含めて、その方が必要とされている支援が受けられることが重要であるが、市町村によって運用状況に差異があるとの指摘がある。 ○ 共生型サービスは、障害者が介護保険サービスを利用する場合も、それまでその障害者を支援し続けてきた障害福祉サービス事業所が引き続き支援を行うために活用できるものであるが、当該サービスの指定事業所の数は未だ多くなく、十分に普及しているとは言えない【令和3年 11 月審査分:共生型介護保険サービスの指定を受けた障害福祉サービス等事業所 148、共生型障害福祉サービス等の指定を受けた介護保険サービス事業所 903】。 ○ また、長年障害福祉サービスを利用してきた方の介護保険サービス利用への移行に伴う利用者負担の軽減を図るために創設された新高額障害福祉サービス等給付費については、対象となり得る利用者への個別周知をしている自治体は約3割となっており、積極的な周知を特段行っていない自治体や支給実績のない自治体もある。 (2) 今後の取組 (高齢の障害者に対する障害福祉サービスの支給決定に係る運用の明確化) ○ 介護保険優先原則の運用に係る考え方は、平成 19 年の適用関係通知(障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係について)で一定の考え方を示している。また、平成 27 年には事務連絡で留意事項を示している。 適用関係通知においては、「障害福祉サービスの種類や利用者の状況に応じて当該サービスに相当する介護保険サービスを特定し、一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしない」という考え方を示している。 ○ しかしながら、市町村によって運用に差異があるとの指摘があることから、基本的な優先原則の考え方は維持しつつも、65 歳を超えた障害者が必要な支援を受けることができるよう、市町村ごとの運用状況の差異をできる限りなくし、より適切な運用がなされるよう、まずは留意すべき具体例を示すことが必要である。 具体的に示す内容については、障害者部会での議論や地方自治体の運用状況等も踏まえつつ、事務連絡の発出や関係会議での説明などの周知を推進していくことが必要である。その際、地方自治体における具体的な運用事例なども含め、現場の実態を踏まえて対応することが必要である。また、具体例を示すことで、かえって、例示されていない場合には障害福祉サービスの利用が一律に認められない、といった不適切な運用に繋がらないよう、地方自治体への周知に当たって注意することが必要である。 加えて、必要な情報が各自治体に行き届くよう、地方自治体への周知方法についても、単に事務連絡を発出するだけでなく、ICTを活用するなど工夫しながら丁寧に取り組む必要がある。 ○ また、障害福祉サービスの利用に当たっては、相談支援専門員の関与も重要な要素であるため、相談支援専門員の研修カリキュラムについて、高齢障害者のケアマネジ メントや介護支援専門員との連携などに関する研修内容を充実したところであり、相談支援専門員と介護支援専門員の一層の連携による最適なサービス提供のためにも、この研修の実施と受講について周知を進めていくことが必要である。 (共生型サービスや新高額障害福祉サービス等給付費に係る周知の推進) ○ 令和2年3月には、関係事業者に対する共生型サービスの立ち上げに必要な準備、手続き等をまとめた「共生型サービスはじめの一歩」作成するとともに、本年3月には厚生労働省ホームページに共生型サービスの特集ページを開設し、関連情報を掲載している。共生型サービスは、高齢者・障害児者とも利用できる事業所の選択肢が増えること、介護や障害といった枠組みにとらわれず、多様化・複雑化している福祉ニーズに臨機応変に対応することができること、人口減少の中で地域の実情に応じたサービス提供体制整備や人材確保を行うことができることなどの点が期待される。また、障害者の高齢化が進む中で、必要な福祉サービスを提供するためにも、共生型サービスは重要な選択肢の1つであり、様々な機会で周知していくことが必要である。 ○ 共生型サービスは、介護保険サービス事業所が障害福祉サービス事業所の指定を、又は障害福祉サービス事業所が介護保険サービス事業所の指定を受けようとする際に、新たに指定を受ける事業についてその基準を満たしていない場合でも、これまで提供してきたサービスと同様の基準により2つのサービスの運営が可能となるよう特例を設けたものであり、報酬についてもこうした考え方を踏まえて設定しているところである。また、2つのサービスについての指定基準を満たした上で、本来の指定を受けることも可能であり、共生型サービスは事業者にとっての選択肢の1つであることにも留意しつつ、周知を行うことが適当である。 ○ 新高額障害福祉サービス等給付費については、希望する対象者が本制度を利用できるようにすることが重要であり、地方自治体において、以下の取組が適切に行われるよう、引き続き周知徹底に取り組むことが必要である。 ・ 対象者等に対する制度概要の丁寧な説明を行うこと ・ 対象となりうる者へ個別に勧奨通知等を送付すること ・ 対象者要件を満たす者の把握については、必要に応じて介護保険担当部局と連携すること 9.障害者虐待の防止について (1) 現状・課題 ○ 障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者の虐待を防止することが極めて重要であることから、障害者に対する虐待の禁止、国等の責務、虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めた障害者虐待防止法が平成 24 年10 月に施行された。 ○ 厚生労働省が実施する障害者虐待防止法に基づく対応状況調査では、養護者虐待は警察からの通報の増加、施設従事者虐待は管理者等からの通報の増加を背景に相談・通報件数が増加の傾向にあるが、虐待判断件数は横ばいの傾向にある。一方で、通報されたものの虐待と認定されなかったものについて検討が必要との指摘がある。 ○ また、市町村の検査体制を強化する観点から、障害者虐待防止法に基づく立入調査を基幹相談支援センターの職員も行えるようにすることを求める意見があったことを踏まえ、令和3年 12 月、事実確認調査は基幹相談支援センターに委託できること、立入調査は市町村が自ら設置する基幹相談支援センターの市町村職員の身分を有する者に限り可能であることが自治体に周知された。 ○ 障害者虐待防止法附則第2条で検討することとされている学校、保育所等、医療機関、官公署等における障害者に対する虐待の防止等の体制の在り方並びに障害者の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策については、平成 29 年度に「障害者虐待事案の未然防止のための調査研究」において、附則第2条の関係機関における虐待防止のあり方について、通報義務に関する点を含めて検討が行われ、まずは既存の法制度において対応可能なことの充実・強化を図り、運用上の改善を進めることが適当とされた。また、同研究の検討結果を平成 30 年 10 月の障害者部会で議論した上で、この方向性に基づき、これらの機関の虐待防止の取組の充実・強化に取り組まれてきた。 (2) 今後の取組 (自治体間のばらつきの是正) ○ 市町村担当部署は、虐待の通報・届出を受け初動対応方針を決定する場面や事実確認結果に基づき虐待の認定を協議する場面に管理職が必ず参加して組織的な対応を行うことが求められるが、障害者虐待の対応状況調査において、管理者が参加していない事例が一定数あったことが認められるとともに、事実確認や障害者虐待の判断について必ずしも適切とは言えない理由により判断を行っている事例や継続してフォローする必要がある事例が認められた。 ○ 上記を踏まえ、市町村による障害者虐待への組織的な対応を徹底するため、障害者虐待の相談・通報の受付や事実確認を担う自治体職員に向けて、虐待の通報・届出を受け初動対応方針の決定や虐待の認定を協議する場面に管理職が参加するよう改めて徹底するとともに、虐待の判断に迷ったり、事実確認不要と判断しやすい具体的な場面等について、とるべき対応や留意点をまとめ、自治体に対して周知する必要がある。 また、自治体が障害者虐待に対して適切に対応するためには、専門的な助言を受けられる体制の整備が重要である。現在、障害者虐待防止対策支援事業(地域生活支援促進事業)により、自治体における弁護士や社会福祉士による専門的な助言体制を確保する取組について補助する仕組みを設けており、本事業の活用等を通じて自治体における専門的な助言体制の整備を推進する必要がある。 (障害福祉サービス事業所等における虐待防止の取組の推進) ○ 障害者虐待の防止については、密室化した環境の中で虐待が起きやすい状況があることから、地域の第三者の目や行政による監査など外部の目を入れる仕組みを充実するとともに、小規模事業所における障害者虐待防止の取組を推進していくことが重要である。 令和4年度から、障害福祉サービス事業所等に係る指定基準において、虐待防止委員会の設置や従業員への虐待の防止のための研修の実施、虐待防止責任者の設置を義務化したところである。虐待防止委員会については利用者や家族、外部の第三者等を加えることが望ましいとしており、これらの取組を更に推進していく必要がある。併せて、自治体による指導監査において、義務化された虐待防止委員会の設置等について徹底するなど虐待の早期発見や防止に向けた取組の強化を図っていく必要がある。 さらに、居住や生活の場であり、運営が閉鎖的になるおそれのあるサービス類型については、地域の関係者を含む外部の目が定期的に入る介護分野の運営推進会議を参考とした仕組みを導入することも、虐待防止の観点から有効であることを踏まえ、検討する必要がある。 令和3年度障害者総合福祉推進事業において、小規模事業所を含む障害福祉サービス事業所における障害者虐待防止の取組の事例集を作成したところであり、その周知を図る等を通して、これらの事業所での虐待防止体制の整備を推進する必要がある。 令和2年度の障害者虐待に関する実態調査において、養護者又は障害者福祉施設従事者等による虐待を受けた障害者の約3割が行動に障害のある者であった。このため、強度行動障害を有する者の支援体制の整備が障害者虐待の防止に重要な関わりがあるとの観点を踏まえつつ、「1.障害者の居住支援について(2)今後の取組(重度障害者の支援体制の整備)」に掲げる取組を併せて進めていく必要がある。 (死亡事例等の重篤事案を踏まえた再発防止の取り組み) ○ 死亡事例等の重篤な障害者虐待事案については、国の調査研究事業において、障害者虐待が発生した要因等について事業者や自治体にヒアリング調査を行い、再発防止に向けた方策を検討している。また、障害者虐待防止対策支援事業において、自治体が行う重篤事案の検証に関する補助を行っており、自治体によっては障害者虐待対応事例集を作成して周知する等の取組を行っている。引き続き、こうした取組を通して、障害者虐待の未然防止と早期発見、再発防止を推進する必要がある。 また、虐待事案について、現行の事務処理では、原則として被虐待者の支給決定自治体が事実確認や虐待判断等の実務を担うこととしているが、同一事業所の利用者が複数の支給決定自治体にまたがる場合、支給決定自治体相互、あるいは、都道府県が早期に一定の把握をすべき事案もあると考えられる。支給決定自治体相互や都道府県が早期に把握すべき虐待事案の対象範囲や情報連携の在り方について、実効ある方策を検討すべきである。 (学校、保育所、医療機関における障害者を含めた虐待防止の取組の推進) ○ 学校、保育所等、医療機関については、障害者を含めた児童・生徒、患者等に対し、一定の虐待防止に資する取組が行われていることから、障害者を含めた虐待防止の取組について、市町村や関係機関との連携を含め、より一層進めていく必要がある。 精神科医療機関には、精神障害者が患者として入院しており、障害者の尊厳を確保するため、自治体とも協働しながら虐待を起こさない組織風土を構築する取組を幅広く進めていくことが求められる。前述「4.精神障害者等に対する支援について」の「4-8 虐待の防止に係る取組」のとおり虐待防止の取組を進めていく必要がある。 10.地域生活支援事業について (1) 現状・課題 ○ 地域生活支援事業については、市町村等において、地域の特性や利用者の状況に応じた柔軟な事業形態により事業を実施しており、障害福祉分野において地域づくり等の役割を果たしている。 ○ さらに、地域共生社会の実現等を図るため、理解促進研修・啓発事業や自発的活動支援事業等の実施により、障害者等に対する理解の促進を図っている。 ○ こうした中、事業ニーズは増大しているものの、予算額の伸びには一定の制約があるため、自治体や当事者団体から予算の確保や障害者個人に対する事業の個別給付化を要望されている。また、総務省から、地方公共団体が地域の実情に応じ必要な事業を円滑に実施できるよう、適切な事業の在り方の見直しについて、指摘を受けている。 〇 一方、個別給付は個別明確なニーズに対応するものとして、指定事業者に関する基準や報酬額の基準を設けることによる全国一律な実施が求められるところであるが、様々な要因により、個別給付の対象となりうる障害者等に対するサービスを地域生活支援事業が担っている場合もある。 (2) 今後の取組 ○ 地域生活支援事業について、障害福祉サービスの適切な利用の推進を図るため、当該事業に含まれる事業のうち、日中一時支援等の障害者等個人に対する支援が含まれる事業と障害福祉サービスの個別給付との利用対象者像の関係等の実態把握や整理を行い、障害福祉サービスの報酬改定等の議論の中で、財源を確保しつつ、その在り方を検討する必要がある。 (実態把握を行う際の観点) ・ 生活介護と日中一時支援との利用状況(日中と夜間の両方に支援ニーズがあるケースなど) ・ 個別給付が使えるにも拘わらず、地域生活支援事業により実施している事業 ・ 個別給付を提供する事業所が地域にないために地域生活支援事業により実施している事業等 ○ また、地方自治体に対し必要な補助が行われるよう、引き続き予算の確保に取り組むとともに、各事業の実施の有無及び課題の把握や、好事例の共有を図ること等により、地方自治体の取組を促していく。 ○ さらに、地域共生社会や障害者の健康を支援する観点からも重要であるとの認識から、社会参加支援に関する取組を進める必要がある。 11.意思疎通支援について (1) 現状・課題 ○ 障害者の情報・意思疎通支援については、日常生活その他の状況において、円滑に必要な情報を取得・利用し、意思表示やコミュニケーションを行えるよう、意思疎通支援事業をはじめとする各種の事業等の実施により進めている。 ○ その代表的な事業として、都道府県及び市町村において、手話通訳や要約筆記等の方法により、障害者等とその他の者との意思疎通を支援する者の派遣やこれを担う人材の養成等の事業(意思疎通支援事業等)が行われている。 ○ 意思疎通支援事業等については、地域生活支援事業として、地域の特性や利用者の状況に応じた柔軟な形態により実施されている一方で、地域により事業の実施状況にばらつきが見られ、支援が必要な者に対して十分なサービスが行き届いていないとの指摘がある。 ○ 意思疎通支援事業等を担う支援者は高齢化が進んでおり、学生や若者等を視野に入れた意思疎通支援従事者の確保等に資する新たな取組を検討する必要があるとの指摘がある。また、昭和 45 年に手話奉仕員養成事業が開始して以来、聴覚障害者を取り巻く社会環境が変化していることから、手話奉仕員及び手話通訳者養成カリキュラムの見直しなど、養成の在り方についても検討が必要との指摘がある。 ○ 視覚障害者に対する代筆・代読支援について、1回当たりの支援時間がそれほど長くならないことから事業として成り立たず、制度として確立させるため、現行制度の運用の見直しなどを検討する必要との指摘がある。また、代筆・代読を必要とする場面によっては、当事者の権利義務関係にかかわることもあることを踏まえ、質の高い支援員の養成が必要との意見もある。 ○ 意思疎通支援事業等については、遠隔手話サービス等の新たなニーズの増加や、地域ごとの取組状況の差異等の指摘を踏まえ、障害者のICT及び情報通信システムの利用促進に取り組むべきとの指摘がある。また、聴覚障害者情報提供施設の果たすべき役割について、ICT技術の進展も踏まえた検討を進めるべきとの意見もある。 ○ 第 208 回通常国会において障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が成立し、令和4年5月 25 日に施行された。 (2) 今後の取組 (ICTの利活用の促進等) ○ 社会全体のデジタル化が進む中で、意思疎通支援事業等の分野においても、 ・ 令和2年度から実施している「遠隔手話サービスを利用した意思疎通支援体制強化事業」により環境整備された自治体における普及状況等 ・ 令和4年度予算において障害者等のICT機器の利用機会の拡大や活用能力の向上を支援する都道府県等のICTサポートセンターへの後方支援等を実施する事業の創設 ・ ICT技術の革新や、意思疎通支援に係る新たなニーズを踏まえた聴覚障害者情報提供施設における支援の在り方についての調査研究事業の実施 等を踏まえ、障害種別や障害特性を考慮しつつ、ICT技術を活用した意思疎通支援の促進や円滑化を図る必要がある。 (意思疎通支援事業に従事する担い手の確保) ○ 令和元年度から本格実施した「若年層の手話通訳者養成モデル事業」や令和4年度予算で創設した意思疎通支援従事者への関心を高める広報・啓発等を行う事業などの取組の実施状況を踏まえ、引き続き障害種別や障害特性に応じた意思疎通支援の担い手の確保と質の向上に向けた取組を実施する必要がある。 ○ 手話通訳者及び手話奉仕員に係る養成カリキュラムに関する調査研究事業を実施し、社会環境の変化等に対応した養成カリキュラムの見直しについて検討する必要がある。 (代筆・代読支援の普及に向けた取組) ○ 代筆、代読に関する効果的な支援に資するための調査研究事業を実施し、障害福祉サービスにおいて必要な支援が提供されるような運用の見直しについて検討する必要がある。 (障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行) ○ 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策を総合的に推進することを目的とする障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の趣旨を踏まえ、意思疎通支援者の養成や、障害者からの相談の対応、事業者が行う取組への支援等、意思疎通支援の促進を図る必要がある。 12.療育手帳の在り方について (1) 現状・課題 ○ 療育手帳は、現時点で法的な位置づけはなく、各自治体が自治事務として運用しており、自治体ごとに検査方法等の判定方法や、IQの上限値や発達障害の取扱い等の認定基準にばらつきあり、手帳所持者が他の自治体に転居した際に判定に変更が生じる可能性や、正確な疫学統計が作成できない状況等が指摘されている。 (2) 今後の取組 ○ 療育手帳制度の運用の地域差により不都合が生じることがないよう、全国統一的な運用を目指すべきという意見があることを踏まえ、国際的な知的障害の定義や自治体の判定業務の負荷等を踏まえた判定方法や認定基準の在り方、比較的軽度な知的障害児者への支援施策の在り方、統一化による関連諸施策への影響及び法令上の対応等も含め、引き続き、令和4年度から実施予定の調査研究を着実に進める等、幅広く調査研究を続けるべきである。 ○ その際には、療育手帳制度に自治体や当事者等が幅広く関係していることを踏まえ、これらの関係者に調査研究や検討のスケジュールを示しながら、進めるべきである。 13.医療と福祉の連携について (1) 現状・課題 (医療的ケアが必要な障害児者(医療的ケア児者)の医療と福祉の連携について) ○ 医療技術の進歩等を背景として、NICU 等の病棟に長期間入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用しながら日常生活を送っている障害児が増加している。このような障害児が、医療機関等を受診し、その指導の下にたんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを適時に受けつつ、障害児通所支援事業所や学校等において身体面での支援等を受けながら生活できるよう、この間の障害福祉サービス等報酬改定において、支援の充実が図られてきた。 (医療と計画相談をはじめとする相談支援等の連携について) ○ 障害児者の地域生活と健康を支えていくためには、本人の希望に応じた暮らしを実現する観点から、福祉と医療の両面からの支援・マネジメントが重要である。また、障害福祉サービスの利用や計画相談支援をはじめとする相談支援など、地域生活や就労等の様々な場面において医療と連携した支援が行われることが重要である。 ○ 障害福祉サービス等の利用申請にあたっては、申請者に対して、就労支援などの一部の訓練等給付のみの場合を除き、主治医の意見書の提出を求めており、市町村において、医療に関する事項を勘案して支給決定が行われる仕組みとなっている。 ○ 相談支援事業者は、計画相談支援において医療を含む関係機関との連携に努めることとされている。また、報酬上、医療機関等と連携して情報収集しつつ計画を作成した場合や入退院時に医療機関と情報連携した場合(入院時に入院先病院に利用者の状況等を提供する、退院時に情報収集を行い計画作成する等)、加算により評価されている。 ○ 上記のように、医療と福祉の連携の推進について一定の方策が講じられているものの、相談支援専門員がより効果的な受診援助の役割を担うことができる仕組みや医療と福祉双方の従事者の相互理解の促進に基づく有機的な多職種連携の推進が必要である、との意見がある。 (入院中の医療と重度訪問介護について) ○ 重度訪問介護を利用している障害支援区分6の重度障害者は、入院中も引き続き重度訪問介護を利用して、本人の状態を熟知したヘルパーにより、病院等の職員と意思疎通を図る上で必要なコミュニケーション支援を受けることが可能となっている。 ○ 入院中における重度訪問介護の利用については、障害支援区分4や5の方にも対象を拡大すべきとの意見や、重度の知的障害や行動障害を抱える利用者等は、コミュニケーション自体が困難である場合が多く、加えて入院という環境の変化で症状が悪化するおそれがあり、入院の際には利用者にとって普段から接している支援者による支援を検討すべきとの意見がある。また、入院中の重度訪問介護の利用について、関係機関の理解や市町村の必要性の判断が課題となっている。 (2) 今後の取組 (医療的ケアが必要な障害児者(医療的ケア児者)の医療と福祉の連携について) ○ 医療的ケア児については、医療的ケアが必要となる成人とは人工呼吸器や経管栄養等の他者による日常的な医療的ケアを必要とする割合が高い等の点でその状態像が異なることから、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定において、医療的ケアの新たな判定スコアを用いた医療的ケア児を直接評価する基本報酬の新設を行ったところであり、その実施状況を踏まえて、保健、医療、障害福祉、保育、教育等の関係機関等が連携を図るための協議の場の設置、医療的ケア児に対する関連分野の支援を調整するコーディネーターの配置、家族への支援等の観点も含め検討する必要がある。 また、医療的ケアが必要な障害者については、各サービスの加算の充実を図ってきたが、医療的ケア児の成人期への移行を見据えつつ、成人期の生活に対応した障害福祉サービスにおける医療的ケアの評価の在り方について引き続き検討する必要がある。 (医療と計画相談をはじめとする相談支援等の連携について) ○ 相談支援事業者は、計画相談支援において医療を含む関係機関との連携に努めることとされているが、改めてその主要な連携先として医療機関や難病関係機関を明示し、その連携の重要性や具体的に求められる連携内容について周知徹底を図る等により、効果的な連携の取組を更に促進するとともに、連携の緊密化を図ることが必要である。また、精神障害者等の疾病の状態が障害に影響する者、強度行動障害や高次脳機能障害を有する者等、本人が医療との関わりを必要とする場合等については医療と福祉の関係者が個々の利用者の支援における各々の役割を明確化しつつマネジメントを行い、かつ相互理解に基づく連携促進を図ることが重要である。そのためには、双方の開催するカンファレンスに関係者が参加することや医療や福祉双方の分野における研修をはじめとする資質向上の取組等が求められる。 他に、個々の利用者の医療と福祉のマネジメントに関する責任を負う者を明確化すべきとの意見、日常生活を営むに当たってはより幅広い視点をもったマネジメントが必要ではないかとの意見、本人中心の支援を実現する観点から、利用者とマネジメントを行う者の関係性に主眼を置いた議論が行われるべきなどの意見等があり、引き続き議論が必要な課題である。 〇 医療機関と計画相談支援の連携については、すでに診療報酬及び障害福祉サービス等報酬において加算等により一定の取組を評価しているが、精神障害者等の疾病の状態が障害に影響する者、強度行動障害や高次脳機能障害を有する者等、本人が医療との関わりを必要とする場合等について、利用者の適切な支援に求められる連携を更に促進する方策等について検討すべきである。(※) また、支給決定に際して市町村に提出された、かかりつけ医等が作成した医師意見書をサービス等利用計画案作成に際しても活用することの促進も必要である。以上に加えて、医療と福祉の連携については以下のような様々な意見があり、引き続き議論が必要な課題である。 ・ 障害福祉サービス利用の可否等を判断する際やサービス等利用計画作成等のケアマネジメントに従来以上に医師が関わることについては慎重であるべきとの意見。 ・ 疾病と障害が併存する者についてはサービス等利用計画作成やモニタリングの際に医師意見書や指示書を求め、医療の観点からの意見を反映させることやその後の経過等を医師に報告する義務を相談支援専門員に課すことを求める意見。 ・ 医師の意見を求める方法や対象者の選定等については、丁寧に議論した上で現場に混乱を招くことがないよう、適切な関与の在り方を検討すべきとの意見。また、医療と福祉の連携に当たっては、本人の意思を尊重することが重要との意見。 ・ 医師意見書の作成に当たって医師の責任のもと多職種協働で取り組むことが有用であることや当事者・その家族が参画することの重要性、市町村と医師会等の連携促進の必要性等を指摘する意見。 〇 入院時に計画相談支援事業所等が本人の症状や特性等の医療機関の求める情報を医療機関に提供した場合や、退院時に医療機関から情報収集・計画作成した際には報酬が算定可能である。こうした場合に、医療機関と相談支援事業所等の関係者間で情報を共有するためのフォーマットを作成し、より円滑な連携に向けて活用するなどの方策を検討する必要がある。その際、ICTを活用する視点が重要である。 〇 また、当事者やその家族にとって、障害児者が受診しやすい医療機関がどこかがわかるようにすることも有益と考えられる。医療と福祉の連携による医療機関情報の収集・集約化・共有することが必要であり、そのために(自立支援)協議会の活用や医師会等の協力を得ながら、障害児者が受診しやすい医療機関情報を地域単位でリスト化し、共有を図ること等の検討も必要である。なお、医療と福祉の連携を進めるに際しては、強度行動障害がある者等の支援における連携等の課題についても検討する必要がある。 〇 障害者支援施設等の入所者の高齢化・重度化が進む中、施設での看取りを希望する障害者に対する支援について、本人の意思決定に関する取組状況等を把握する必要がある。 (入院中の医療と重度訪問介護について) ○ 入院中の重度訪問介護利用の対象となる障害支援区分については、入院中の重度障害者のコミュニケーション支援等に関する調査研究の結果を分析しつつ、支援が必要な状態像や支援ニーズの整理を行いながら、拡充を検討すべきである。(※) 〇 入院中の重度障害者のコミュニケーション支援等が行われる場合には、医療機関と支援者は当該入院に係る治療や療養生活の方針等の情報を共有するなど十分に連携することが必要である。このため、利用者の普段の状態像・支援ニーズや入院中の個々の利用者の症状に応じたコミュニケーション支援の方針・方法等について、関係者間で情報を共有するためのフォーマットの作成など、より円滑な連携に向けての検討が必要である。その際、ICTを活用する視点が重要である。 〇 また、入院に重度訪問介護を利用する者にとって地域の医療機関における重度障害者の受入等に関する情報があれば有用である。 このため、医療と福祉の関係者が連携して、地域の医療機関情報をリスト化し、共有を図ること等の検討も必要である。 〇 この他、重度訪問介護利用者以外の入院中のコミュニケーション支援についても、保険医療機関の役割や合理的配慮等の関係も考慮しつつ、ニーズや実情を把握しながら、引き続き検討する必要がある。 開催経緯 第106回 日時:令和3年3月19日(金) 議題:障害者総合支援法の施行後3年を目途とした見直しについて 第107回 日時:4月19日(月) 議題:関係団体ヒアリング① 第108回 日時:4月23日(金) 議題:関係団体ヒアリング② 第109回 日時:5月14日(金) 議題:関係団体ヒアリング③ 第110回 日時:5月17日(月) 議題:関係団体ヒアリング④ 第111回 日時:5月24日(月) 議題:関係団体ヒアリング⑤ 第112回 日時:6月21日(月) 議題:障害者総合支援法の施行後3年を目途とした見直しについて 障害者の就労支援について 第113回 日時:6月28日(月) 議題:障害者の就労支援について 障害者の居住支援について 第114回 日時:7月16日(金) 議題:障害者の相談支援等について 地域生活支援事業等による地域づくりと連携した支援等について 第115回 日時:7月28日(水) 議題:障害児支援について 第116回 日時:8月30日(月) 議題:居住地特例について 高齢の障害者に対する支援等について 93 第117回 日時:9月6日(月) 議題:障害福祉サービス等の質の確保・向上等について 制度の持続可能性の確保等について 第118回 日時:9月16日(木) 議題:障害者の就労支援について 精神障害者に対する支援について 第119回 日時:10月1日(金) 議題:障害者の相談支援等について 障害者虐待の防止について 第120回 日時:10月18日(月) 議題:障害児支援について 第121回 日時:11月5日(金) 議題:障害者の居住支援について 第122回 日時:11月29日(月) 議題:議論の整理 第123回 日時:12月3日(金) 議題:中間整理案(案)について 第124回 日時:12月13日(月) 議題:中間整理案(案)について ※ 「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて 中間整理」(令和3年 12 月 16 日) 第125回 日時:令和4年3月11日(金) 議題:障害者の居住支援について 第126回 日時:4月8日(金) 議題:障害者の就労支援について 医療と福祉の連携について 第127回 日時:4月18日(月) 議題:障害者の相談支援、障害者虐待防止に係る取組の更なる推進について 障害福祉サービス等の質の確保・向上等、高齢の障害者に対する支援について 94 第128回 日時:4月25日(月) 議題:制度の持続可能性の確保等、地域生活支援事業、意思疎通支援、療育手帳の在り方について 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会の議論の状況について 第129回 日時:5月16日(月) 議題:議論の整理 第130回 日時:5月27日(金) 議題:精神障害者等に対する支援について 議論の整理 第131回 日時:6月3日(金) 議題:報告書(案) 第132回 日時:6月13日(月) 議題:報告書(案) 95 ヒアリング団体一覧 令和3年4月19日(月) ・一般財団法人全日本ろうあ連盟 ・一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 ・一般社団法人日本難病・疾病団体協議会 ・特定非営利活動法人日本高次脳機能障害友の会 ・一般社団法人日本筋ジストロフィー協会 ・社会福祉法人全国社会福祉協議会全国身体障害者施設協議会 4月23日(金) ・公益財団法人日本知的障害者福祉協会 ・一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会 ・特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク ・障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学会 ・公益社団法人全国脊髄損傷者連合会 ・社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 ・社会福祉法人全国社会福祉協議会全国社会就労センター協議会 ・全国就労移行支援事業所連絡協議会 ・特定非営利活動法人全国就業支援ネットワーク 5月14日(金) ・公益社団法人日本精神科病院協会 ・一般社団法人日本精神科看護協会 ・公益社団法人日本精神保健福祉士協会 ・社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 ・公益社団法人全国精神保健福祉会連合会 ・一般社団法人日本精神保健福祉事業連合 ・全国精神障害者社会福祉事業者ネットワーク ・全国「精神病」者集団 ・公益社団法人日本医師会 ・公益社団法人日本看護協会 ・特定非営利活動法人難病のこども支援全国ネットワーク ・きょうされん 96 5月17日(月) ・全国知事会 ・全国市長会 ・全国町村会 ・一般社団法人日本発達障害ネットワーク ・一般社団法人日本自閉症協会 ・社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会 ・全国重症心身障害日中活動支援協議会 ・特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会 ・一般社団法人全国肢体不自由児者父母の会連合会 ・全国肢体不自由児施設運営協議会 ・一般社団法人全国児童発達支援協議会 ・一般社団法人日本ALS協会 5月24日(月) ・公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 ・社会福祉法人全国盲ろう者協会 ・特定非営利活動法人DPI日本会議 ・特定非営利活動法人日本失語症協議会 ・特定非営利活動法人日本相談支援専門員協会 ・全国自立生活センター協議会 ・一般社団法人全国地域で暮らそうネットワーク (計46団体) 97 社会保障審議会 障害者部会 委員名簿 阿部 一彦 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長 阿由葉 寛 社会福祉法人全国社会福祉協議会全国社会就労センター協議会会長 安藤 信哉 公益社団法人全国脊髄損傷者連合会事務局長 石野 富志三郎 一般財団法人全日本ろうあ連盟理事長 井上 博 公益財団法人日本知的障害者福祉協会会長 内布 智之 日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構代表理事 (令和4年4月 24 日まで) 江澤 和彦 公益社団法人日本医師会常任理事 岡田 久実子 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長 沖倉 智美 大正大学教授 ◎ 菊池 馨実 早稲田大学法学学術院教授 菊本 圭一 特定非営利活動法人日本相談支援専門員協会代表理事 久保 厚子 一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会会長 黒岩 祐治 全国知事会(神奈川県知事) 小阪 和誠 日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構代表理事 (令和4年4月 25 日より) 小﨑 慶介 全国肢体不自由児施設運営協議会会長 小林 真理子 一般社団法人日本発達障害ネットワーク副理事長 齋藤 訓子 公益社団法人日本看護協会副会長 酒井 大介 全国就労移行支援事業所連絡協議会会長 櫻木 章司 公益社団法人日本精神科病院協会常務理事 白江 浩 社会福祉法人全国社会福祉協議会全国身体障害者施設協議会副会長 ○ 新保 美香 明治学院大学教授 陶山 えつ子 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会副代表理事 竹下 義樹 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合会長 飛松 好子 国立障害者リハビリテーションセンター顧問 中里 道子 国際医療福祉大学 医学部精神医学主任教授 永松 悟 全国市長会(杵築市長) 丹羽 彩文 特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク事務局長 野澤 和弘 植草学園大学副学長(教授)/一般社団法人スローコミュニケーション代表 藤井 千代 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長 吉川 かおり 明星大学教授 (五十音順、敬称略) (◎は部会長、○は部会長代理)