最新情報

前の画面へ戻る
介護制度問題等に対する日身連の見解について 2004/11/25
  11月24日に日本身体障害者団体連合会が開催した「第3回臨時理事会」で、介護制度問題等にかかる内部検討委員会(前田委員長)が提出した、『介護制度問題等にかかる内部検討委員会・答申』(以下参照)について審議した結果、全会一致で了承されました。
なお、この答申は、この理事会において、一部文言の修正を求める意見が出されたため、修正を加えられています。


          介護制度問題等にかかる内部検討委員会・答申
           障害者施策と介護保険制度の関係について

                                       平成16年11月19日

 社会福祉法人
 日本身体障害者団体連合会
 会長 兒 玉  明  殿
                                       委員長 前 田  保


1.はじめに

(1)当委員会では、6月8日に、障害者施策と介護保険制度の関係についてどう考えるべきか中間答申をとりまとめたところであるが、その後においても、社会保障審議会の障害者部会や介護保険部会での審議状況に関心を払うとともに、厚生労働省との意見交換会も開催してきた。

(2)また、この間、今後の障害者保健福祉施策の在り方に関する試案である「改革のグランドデザイン案」(10月12日)や、介護保険制度の対象年齢を引き下げた場合の保険料の見通しの資料(10月29日)が提示された。

(3)こうした新しい資料や意見交換の場での議論等を踏まえて当委員会としてとりまとめた内容を、以下のとおり答申する。


2.「改革のグランドデザイン案」について
 
(1)10月12日に厚生労働省より示された「改革のグランドデザイン案」は、次の諸点で評価できる。
① 「障害のある人が普通に暮らせる地域づくり」や「障害のある人のニーズや適性に応じた自立支援」など、障害者の地域生活の保障に主眼が置かれていること。
② 居宅サービスを含めた支援費予算を「義務的経費」化し、安定的な財政制度を目指す方向が示されていること。
③ 施設単位の報酬の支払方式となっている施設についても、個人単位の支払方式に改めるとしていること。
④ 機能面に着目した施設体系の再編・見直しを行うとしていること。
⑤ 自治体間の格差縮小等のための調整金を導入するとしていること。
⑥ 障害種別ごとの縦割り制度から転換し、障害者共通の枠組みとして、 「障害福祉サービス法(仮称)」の創設を検討するとしていること。
(2)こうした点は、これまで日身連として訴えてきた障害者施策の目指すべき将来方向の内容と大筋において一致するものであり、「改革のグランドデザイン案」について、基本的には賛成する。

(3)ただし、次の事項に関しては、これまでの施策の流れの中で障害当事者に不安を与えてきたことにより当事者は敏感になっていることから、障害者の地域生活を推進する上での妨げにならないかどうか懸念もあるところであり、日身連としてはより良い制度となるよう、積極的に議論に参加していきたい。
① 応益負担の導入と表裏の関係にある課題として、障害者の所得保障の充実を図ること。
② 利用者負担に際して扶養義務者の負担を撤廃すること。
③ 利用決定に関する審査会の具体的な在り方を適切なものとすること。また、苦情処理機関の創設を検討すること。
④ ニーズに対応できるよう社会資源の整備を進めること。
⑤ ガイドヘルパーを利用者の立場に立った使いやすい仕組みにすること。
⑥ 介護保険制度では「制度の谷間」にある人にも対応する方向が示されているが、介護以外の障害福祉サービスにおいても「谷間問題」に対応すること。
など


3.介護保険制度の対象年齢の引き下げについて

(1)介護保険制度の対象年齢が引き下げられれば、年齢や障害の原因を問わず、介護を必要とする人には、すべて同一制度から介護サービスが提供されるようになる。
 現在65歳以上の障害者は、介護保険制度の適用を受けている。それに対し、65歳未満の障害者は、支援費制度の適用を受けており、同一の体系となっていない。特に、40歳から64歳までの障害者は、介護保険の保険料を支払いながら、例外的な場合を除き、介護保険制度を利用できないという仕組みになっている。また、福祉各法で「障害者」として認められなければ必要な介護サービスを受けられないという「制度の谷間」の問題も生じている。
 こうした現状を踏まえ、我が国の介護の制度について、年齢や障害の原因、手帳の有無等を問わない普遍的な制度にすることは、望ましい方向であると言える。

(2)介護保険制度を実施するに当たって、64歳以下については、5年後の見直しの時に介護保険の中にどのような形で活用するかを検討することになっていた(宿題となっていた)。
   その後、その途上で支援費制度が施行され、そのこと自体は、障害当事者にとって利用度が高まり一定の評価をすることが出来るものの、予算的には1年足らずで不足を来し、大きな混乱を引き起こすことになった。
   こうした背景や経過を十分踏まえて、検討を行う必要がある。

(3)また、新聞等では、介護保険制度と障害者施策の「統合」問題という表現で報道されることもあるが、事実は「統合」ではない。障害者施策のうち、あくまでも「介護」に該当する部分だけが介護保険制度に移行し、「介護」に該当しない部分(ガイドヘルパーや就労訓練など)は引き続き支援費や社会参加促進事業に残り、支援費等は存続するからである。
   すなわち、障害者施策が介護保険制度に吸収されるのではなく、障害者施策の中で介護保険制度を活用しようということである。

(4)したがって、支援費の存続を前提とした上で、介護保険制度を活用することになるため、障害者介護サービスの水準が低下するのではなく、一般的には、向上することになると考えられる。
   10月29日に厚生労働省より示された試算では、あくまでも仮定の話という断りはあるが、現行の障害保健福祉予算7500億円のうち6割の4500億円が介護保険制度に移行し、残りの3000億円は支援費等障害施策として存続する。このうち、介護に当たる4500億円部分の将来費用見通しが出されており、平成26年には1兆円になるという計算である。単なる試算の一つであるが、介護保険制度を活用すれば、こうした規模の費用の議論が現実的に可能となるということである。

(5)このほか、介護保険制度を活用する意義や効果として、次のような点があげられる。
① 国民の相互の保険料負担という社会連帯の仕組みによって障害者の介護ニーズも支えられることになり、共生社会の理念に合う。
② サービス利用の「権利」的色彩が強まる。また、個人単位の制度となる。
③ 市町村間の障害者介護サービス水準の格差の是正につながる。その結果、障害者の地域生活の保障につながる。
④ 難病やがん患者等の「制度の谷間」の問題が解消する。
⑤ 介護保険制度の活用により存続する支援費や社会参加サービスの充実も期待できる。
⑥ 個別ケアの理念に基づく介護が、高齢者介護においても一層広がることが期待できる。




4.介護保険制度との関連における主な課題

(1)しかし、一方で、介護保険制度を活用する際の課題も多い。現時点で予想される主な課題及びそれに対する対応の状況は、別紙の「主な課題」に示したとおりである。

(2)今後内容が具体化していく中で引き続き検討を要する項目もあるが、おおむね理解・納得が得られる内容であると考えられる。


5.全体的な結論

(1)以上、2.~4.で述べた内容を踏まえつつ、総合的に判断すると、今後の障害者福祉を充実させるためには、
   ・ 「介護保険<介護部分>」と「支援費等<介護以外部分>」という2つの制度基盤の上に、
   ・ 「障害福祉サービス法(仮称)」を実現すること
  が最良の方法であると考える。
   したがって、①サービス法の創設を含む「改革のグランドデザイン案」を実施していくこと、②介護保険制度の対象年齢を引き下げた上で障害者施策において介護保険制度を活用することに賛成する。

(2)ただし、次の3点を指摘しておきたい。
  ① 応益的な利用者負担の導入に際しては、低所得の障害者に対する細心の配慮が必要である。利用者負担の問題の根源には、障害者の所得保障の問題がある。今後、就労支援対策の充実とあわせて、障害基礎年金の給付水準について再考されていくべきである。このほか、2.で列挙した懸念事項について、適切な解決が図られる必要がある。
② 施行までの期間を十分にとり、実施機関である市町村が適切に準備できる余裕を確保する必要がある。
③ 細部はまだまだ明らかになっていない点が多い。支援費制度のような混乱を繰り返すことのないよう、厚生労働省においてはサービス利用の当事者である日身連と引き続き協議を行っていくこととされたい。
                              
以上



別紙「主な課題」

                                               [別 紙 ]

                      主 な 課 題 


1.サービス水準
  現行の支援費制度による障害者一人ひとりのサービス水準を低下させな いようにすること。

(答)
 ・ 全国約110の市町村から今年1月時点でのデータをとり、集計したところ、在宅で支援費サービスを利用している身体障害者(18歳~64歳)の平均利用額は、月約11万円でした。
・ この水準は、介護保険制度に当てはめれば、要支援(軽)から要介護5(重)まである「要介護度」のうち、要介護1以上に該当すれば、カバーすることができます。(要介護1の場合で、ひと月の利用限度額は約16万円です。)
 ・ また、支援費の対象サービスのうち全てのサービスが介護保険制度でまかなわれるようになるのではなく、「介護サービス」に該当しないもの(例えば、就労支援や移動介護)は、引き続き支援費制度等から提供されます。
・ こうしたことを考えると、一般的には、現在よりもサービスが充実していくものと考えられます。


2.地域間格差
  サービスの利用状況に関する地域差を縮小し、全国どこでも必要なサービスを平等に利用できるようにすること。

(答)
 ・ サービスの利用状況に関する地域差を縮小して、全国的に必要なサービスを利用できるようにしていくことが重要です。
 ・ 介護保険制度により障害者の介護サービスが提供されるようになれば、市町村間のサービス格差は縮小する方向に向かうと予想されます。
 ・ これとは反対に、支援費が一般財源化され、全額市町村の負担となった場合には、市町村間の格差は今より一層大きくなると予想されます。


3.上限問題
  長時間のサービスを必要とする障害者にとって、地域生活を維持できるよう、上乗せ部分をどのような仕組みとするかが重要であり、国が責任をもって関与し、安定した制度となるようにすること。

(答)
・ 極めて重度の障害者の方の地域生活を支えるためには、介護保険による サービスだけでは対応できない場合があります。新しい仕組みを含め、こ うしたケースの方への支援のあり方を検討し、実現していく必要があると 考えます。
 ・ また、改革のグランドデザイン案においては、重度の障害者が多くいるなど市町村の責めに帰すことのできない事由により給付費が増加した市町村については、国庫の配分の際、一定の調整を行い、支援することが提案されています。


4.利用者負担
  多くの障害者にとって、保険料、利用時の自己負担が大きな負担となるため、十分な低所得者への対応が講じられるようにすること。また、本人本位の視点から扶養義務者の負担制度を撤廃すること。

(答)
・ 介護保険制度の保険料は、所得水準に応じて、5段階に分かれています。
今回の改正で、より実態に合うように、6段階に細分化する予定です。これにより、低所得の方への配慮が図られています。
 ・ 介護保険制度の利用料は、原則として、かかった費用の1割が本人負担(扶養義務者の負担はない)となります。ただし、月の利用料が一定額(所得水準に応じて、15000円、24600円、37200円)を超えた場合には、後でこの超えた部分を返還してもらえる制度があります。
 ・ 介護保険制度が最初に導入された際にも、利用者負担が増えることが問題となり、そのときは、施行の際に現にホームヘルパーを使っている人の利用料について経過措置が設けられました。(初めの3年は3%、次の2年は6%、施行後5年後に本則通り10%)
・ なお、利用者負担をどうするかということについては、介護保険の適用となるかどうかにかかわらず、増大する障害保健福祉予算をきちんと確保しようとする場合にはどうしても検討しなければならない課題であると言えます。このため、「改革のグランドデザイン案」の中で、 負担能力の乏しい方への配慮を行いつつ、各人が受けたサービス量に応じた負担(応益的な負担)を導入し、併せて扶養義務者の負担を廃止する方向が示されています。
・ いずれにしても重要なのは低所得の方へ支援策の具体的な内容であり、協議しながら決めていく必要があると思います。


5.アセスメント(要介護認定)
  多様な障害に対応したアセスメントとなるよう、要介護認定のプログラムの内容について検討すること。

(答)
・ 介護保険の「要介護認定」は、あくまで「介護ニーズ」のみを測定することを目的としています。したがって、社会参加や移動介護、就労支援ニーズは、それらがあっても要介護認定の判定結果には反映されません。こうしたニーズは、介護保険の守備範囲ではなく、支援費制度等従来の障害保健福祉施策の守備範囲となります。
 ・ ただし、「介護ニーズ」に限定した場合でも、若い障害者に適切に機能するかどうかは検証が必要です。今年からこうした調査を開始しており、検証の結果、介護ニーズの反映が不十分ということになれば、要介護認定の内容を見直すことになります。
 ・ なお、これまでも、要介護認定に関しては、痴呆症の高齢者の介護ニーズが結果に適切に出ないという指摘があり、痴呆症に対応できるよう、昨年4月に内容の一部見直しが行われました。

6.ケアマネジメント
  障害者支援の特徴を踏まえた、自己決定を尊重したケアマネジメントが可能となるようにすること。

(答)
 ・ 障害者のケアマネジメントは、介護サービスにとどまらず、就労支援や教育、制度外サービスなど、幅広い分野のサービスや支援を含むものとする必要があります。
・ このため、改革のグランドデザイン案においては、福祉サービスの利用にとどまらない総合的なケアマネジメントが提案されています。今後、市町村や都道府県で適切な相談支援を行えるよう、体制の整備や人材の配置を検討する必要があります。
 ・ なお、介護保険との関係については、障害者の幅広いケアマネジメントのうち介護サービスに係る部分を介護保険のケアマネジャーが担当することにより調整が可能であると考えます。


7.ガイドヘルパー 
  視覚障害者のガイドヘルパーは障害者特有のものであり、保険外の施策として位置づけられるようにすること。

(答)
 ・ ガイドヘルパーは、現行の介護保険制度ではその給付メニューとはせずに、障害保健福祉施策の対象として位置づけるべきサービスであると考えます。
 ・ 視覚障害者の移動支援は、計画的な利用になじまず、より自由に利用できることが求められていることから、これを踏まえた制度上の位置づけを行うことが必要です。


8.身体障害者グループホーム
  24時間のサービスと安心を確保できる一つの方法として、身体障害者向けのグループホームを検討すること。
(答)
 ・ 「改革のグランドデザイン案」において、今後、居住支援サービスとして、「ケアホーム」、「グループホーム」、「福祉ホーム」 等の類型を設ける予定としており、これらを具体的に検討する中で身体障害者の居住支援サービスの在り方についても重要なテーマとなります。


9.障害者特有の用具
  オーダーメイドの車いす等の支給も障害者特有のものであり、保険外の施策として位置づけられるようにすること。

(答)
 ・ 介護保険制度の福祉用具関連サービスはレンタルが基本となっており、「レンタル」ではなく、「支給」による用具関連サービスについては、障害保健福祉施策の対象として位置づけるべきであると考えます。


10.その他
  制度設計にあたっては、日身連との協議、相談の場を設けること。

(答)
 ・ 制度をより良いものとしていくため、協議や相談の場は極めて重要であり、継続的に必要であると考えます。





 この答申についてのお問い合わせは、事務局長まで


前の画面へ戻る



社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会
〒 171-0031 東京都豊島区目白 3-4-3
電話 : 03-3565-3399   FAX : 03-3565-3349
NISSINREN